【前回の記事を読む】「早く救急車を呼ばないと、保護責任者遺棄罪で逮捕されますよ」これが在宅介護の現場で起きている

第2章 老いを受け入れるということ

長年連れ添った夫婦が老いてから見せる本性

ここでひとつ、両親の昔のエピソードを。

私の両親が結婚することになり、アパートの契約に行った時のことです。

東京中野の小さなアパートの契約の段になった時、父親はお金をまったく持っていませんでした。仕方なく母は、自分の財布から一時金を出し、不動産屋に支払いました。

この話を大人になって聞いた私と私の夫は、口を揃えて、「そういう人とは結婚してはいけないな」と言いました。

お金を持っていないのが、悪いと言っているのではないのです。

私は父に、今日はお金を持って来なかったからまたにしようと言ってほしかったのです。実際のところ私の両親は、実の娘である私が不思議に思うほど仲が悪かったのです。

昨日、母の日と母の誕生日を祝うために、老人ホームへ行って来ました。

もう母の日も、自分の誕生日も、そして自分の歳さえも忘れた母の口から出た言葉は、父に対するものでした。

「今すぐ後ろから蹴り倒して、あの人を殺してほしい」

認知症が重症化すると、憎しみもさらに深まるのです。

三つ子の魂百までとはよく言ったものです。

母の記憶の中の夫には、憎しみの感情しか残っていません。

憎いという感情は、愛されたかったという感情の裏返しかもしれませんが……。

もちろん罪は犯しません。

ただ少しだけ、母の仇を取りたい気になった私です。

夫婦のお互いへの思いが、老いてからわかることも。