「これは遺伝ですよ。お嬢様にお教えするような秘伝なんてありませんよ」

と、一蹴されたりする。

交差点にいた黒いスーツの男のことが引っかかる。薫子は母から聞かされた自分の運命は理解しているが、その運命に従うつもりはなかった。人をあの世に送る手助けではなく救うことを選んだのだ。そのために医学部に進学した。母も看護師として医療に従事していたからでもある。

次の朝も大学までいつもの道をオリビアのアルバムを聞きながら歩いている。いつもは敢えて人々の頭の上に見える光には気を留めないようにしているが、昨日の今日なのでついつい頭の上が目に付く。

よく見ると若いのに既に頭の輪郭程度しか光っていない男の人がジョギングしていたりする。鴨川の土手に座っている年寄を見ると、輝きは弱弱しいが光輪の大きさはしっかりしている。

〈何やってんの! あほ!〉

薫子は頭を振ってこの忌々しい能力に諍(あらが)おうとした。しかし、頭をいくら振っても人の頭の上の光が消えることはなかった。

中学の時、同じクラスの友達が病気で学校を長期に休んだ。薫子も仲が良かった友達の一人で、数人の友達と病院に見舞いに行くことになった。その瑠美(るみ)は今思うと小児がんにかかっていたのだろう。

抗がん剤の副作用で頭の毛が抜け落ちたらしく毛糸のピンクの帽子を被っていた。薫子たちが病室を訪れると本当に嬉しそうにやせ細った手を振ったのを覚えている。弱弱しく頭の上で輝く光が一段と輝きを増したのを薫子は見逃さなかった。

回光返照とはまさにこのことである。残された命を振り絞って最期の光を放っているのだ。薫子が他の友達の後ろの方で見守っていると、

「薫子ちゃん、これ、春に借りた漫画。返すわ」

と、瑠美が本を薫子に差し出した。