問い4 小児科医
医師も多くの診療科があります。どんな理由で小児科医になったのですか? 小児科医になって、子どもを育てる両親について気づいた事はありますか?

僕は最初、医師になる希望もなかったんだ。だから医学生になって、何科に行くというのも、ほとんど考えた事もなかった。ただ卒業の年度には、自分の専攻科を決めなければいけない。

その頃は大人の話を聞くのも苦手だったので、言葉ではなくて、獣医さんのように子どもや赤ちゃんの理学所見(一般診察)や検査だけで勝負しようという感じで、小児科を選んだのかな? でもそれなら外科系でも良かったような気がする……。

とにかく留年生だったので、最後は医師国家試験を通れば何の科でもいいよ、という為体(ていたらく)だったね。小児科医として現在の自分をみると「悪くない」ので、動機は実はなんでもいいんだろうね。

そして実際になってみると、両親の「この新米医者、大丈夫なの?」という鋭い視線や、親への子どもさんの病状説明などもあって嫌だったなあ。

でも30年前だったからね、社会がそれほど契約社会ではなくて、私が新人の医者のせいで、点滴を何回失敗しても、また入院が長引いても、ほとんど親御さんも気にしないんだ。いや気にしているんだろうけど、まだ医者の社会的地位が高くてクレームもできなかったのかもしれないね。

医療の世界は、今大変だよね、隔世の感ありだ。現在は新人の小児科医のために、練習用の新生児注射モデル(赤ちゃんの手と腕を模して作った人工モデルで、それで研修医は注射や点滴の練習をする)もあるようだ。でもその頃は、ある程度の小児の点滴の習熟に至るまでには、実際の子どもさんを泣かせないわけにはいかなかったんだ。

おそらく今だって、実際あまり変わらずそうなっているだろう、と思う。

心配性の親御さんもよくいた。親御さんは大抵過剰に心配性で、彼らの言っている事の90%は聞かなくてもいい事だ。

けれど若い小児科医が気づかなくて、時々とても細かいところに注目して、「これってどうなんですか?」と聞く親御さんもいる。それを詰めていくと、病気の本質が見えてくることもあるんだ。

10回に1回、これは親しか気づかない事で、臨床上、すごくヒントになることがあって、それは、正確な診断と治療に直結するという事なのだけれど、特に母親の子どもへの「気づき」は超能力に近い事がある。それほどものすごい気づきなのだった。

実際その時は、医師としての私の気づき能力をはるかに凌駕する。10%というのは、すごく高い数字なんだ、親っていうのは驚くべき存在だよ。心配性の親の言う事だって10回に1回は秀逸なので、臨床医は刮目して待たねばいかん、そう言う事に若い時に気づいて僕はとても良かったな。

 

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