【前回の記事を読む】「この回覧板、5階にお願いね」——出かけようと外へ出ると、近所のおばあちゃんが待ち構えていて……

夜空の向日葵

「まあ、内灘の花火大会が見えるっていっても、梅干しくらいの大きさよね」

「いいじゃない。もしかしたらどこか別のところの花火大会だって見えるかも知れないし。それに、夜景もいい感じよね。毎日ビール片手に癒されそう」

うわ、すごいお寿司。莉奈が広げたプラスチックの桶に、私は思わず声をあげた。立派なウニの軍艦に、大トロ、身の厚そうなヒラメなどがぎっしりつまっている。

「近所に最近できた銀虎のよ。引っ越し祝い」

銀虎といえば、関西にできた一号店にものすごい予約が入っているというあの寿司屋だ。

「ありがとう。嬉しい」

お皿を持ってくると、莉奈がうわーまさか、と残念そうな声をあげた。

「ごめん、わさび、もらうの忘れた。あの店、必要な分だけ持って帰るようになっててさあ」

「え、わさび。うちにも無いわ」

引っ越しの時に、もうほとんど残っていないから、チューブごと捨てたのだ。

「あたし、ひとっ走り行って、買ってくる」

「なくてもいいって」

「わさびのないお寿司なんて、いちごのないショートケーキみたい」

莉奈は財布を持って立ち上がった。

「前の道を出て、少し歩くと、駄菓子屋や小さな商店があったかしら」

「オーケー、ちょっと行ってくる」

「ありがと。じゃあ、いろいろ準備してる」

言うや否や、もうドアの閉まる音がした。莉奈は思い立てばすぐ行動に移す。そこは、学生時代から変わっていなかった。

今日のためにと奮発して買った右京の大吟醸を冷蔵庫から出して、昨日仕込んでおいたオマールエビのスープを温めにかかった。窓の外は暗くなっていて、もう誰が歩いているかわからないほどだ。