【前回の記事を読む】まだゴミの日でもないのに扉の前に水漏れする袋が…真夏を迎えたらどうなるのかと思うと背筋が冷えた
夜空の向日葵
小さな八百屋の周りには、車が通りにくいのをいいことに、野菜の入った段ボールが所狭しと並べられていて、その周囲を、人や自転車が取り囲むように覆っている。
それらをかき分けて見ると、立派な大根一本三十円、リンゴ四十円と、その店は不知火さんが教えてくれたとおり、確かに安い。調子に乗って買うと、スーパーに立ち寄れなくなるどころか、坂道さえ上れなくなる可能性があるから、まず人参、キュウリ、と慎重に選んでかごに入れていった。
問題のキャベツも、割と小さい玉があり値段も百円だ。百円なら、不知火さんから返ってこなくてもあきらめはつく。キャベツをかごに放り込むと、列ができているレジに向かった。五分ほどして回ってきた順番のレジで、おじさんが発した言葉に私は驚いた。
「お客さん、これ、キャベツふた玉で百円」
耳を疑った。キャベツがふた玉百円だなんて。
「もう一つ、入れとくよ。おーいチーフ、キャベツ一個もってきて」
おじさんは、威勢よく叫んだ。
「い、いえ。もう、ひと玉百円でいいです」
「いや、そういう売り方、できないよ」
「じゃあ、いらないです」
「いや、もう、レジ、打っちゃったし。返品なら、また並んでもらわなくちゃ」
後ろを振り返ると、後ろに並ぶ人々が、食い入るようにこちらを見ていた。
「わかりました。じゃあ、買います」
渡されたレジ袋は、指にずっしり食い込むほど重たかった。さすがに、ふた玉のキャベツは重い。不知火さんに返されたジュースの缶が、更に追い打ちをかけるように気持ちの重みを増した。
重たさのあまり、卵を引き替えるためにスーパーに寄ることもできず、ようよう上ってきた団地の公園のベンチに、どっかりと腰を下ろした。レジ袋には、キャベツが沈んでいる。