私はその一つだけをレジ袋に残して、他の野菜をエコバッグに移した。そして、またよろよろと階段を上ると、二〇二号室のドアの取っ手にレジ袋をひっかけた。

「自然も多いし、空気はいいし、さしずめ、都会のオアシスって感じね」

バスから降りると、莉奈は空気がおいしいと言ったふうに手を広げて深呼吸をした。私はと言えば、初めて駅から団地まで乗ったバスに、こんなに楽に上ってこられるのだと感動しつつ、小銭が運賃箱に吸い込まれていくのを恨めしく眺めた。

莉奈には、バス代を浮かせるため、毎日歩いて上っていることは伝えていなかった。それに、ここに引っ越してきたのだって、息子が一人暮らしを始めて部屋が余ったからということにしていた。

何でも言える友人とはいえ、やはり女友達との間の見栄を張るような部分はあって、お金が無いと言っても会えばさりげなくアクセサリーはするし、ヘアカラーだって抜かりなかった。

団地の下まで来ると、見たこともない白い国産車が止まっているのが見えた。その脇を通って私達は階段を上った。そして、二〇二号室までやってくると、私は無言でドアを指さした。莉奈が、ああ、といったふうにうなずいた。

「確かに、二〇二号室の前、ゴミは置きっぱなしだし、嫌な感じね」

ドアを閉めるなり、莉奈が顔をしかめた。

「でしょう。昨日の朝なんて、出勤しようと思ったら待ちかまえていて、この回覧板、五階にお願い、だって。仕方なく、五階まで行ってまた降りてってしてたら、電車に乗り遅れちゃった。だから、今朝は会わないように十分早く出たっての」

「ひどいわねえ。まるで、麻里子のこと、お手伝いさんかなにかだと思ってるみたいね」

あら、いい景色、と莉奈が窓に駆け寄った。

「木が邪魔してるけれど、ここからなら内灘の花火大会、見えるわよ。うらやましいわ。うちなんて、目の前にタワマンが建っちゃったから見えなくなっちゃった。うちの資産価値、だだ下がりよ」

莉奈のマンションは比較的海に近いタワーマンションの十五階で、以前招いてもらった時は、高速道路が少し邪魔をしてはいるけれど、内灘の花火会場に近いから大きな花火が見えて、音も迫力があった。

次回更新は1月11日(日)、11時の予定です。

 

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