一月十五日(金)

羊羹をモグモグさせながら、窓際の母が言った……。

「お母さんの事ばっかりじゃなくて、山の景色も撮って……」と。

確かに美しい雪景だ。日々母の心を癒してくれるこの風景を、こうして言われなければ撮らずじまいとなってしまうところであった。

「それから……そこの、お菓子工場と火の見櫓(やぐら)も……」

病院周りのこの辺りは、いつも母が散歩して歩いた思い出の場所だ。窓の外に見える全てのものが美しく、感動的に母の目には映るのか……、母は袖に涙を拭った。

「いんない、院内を……」と、涙の乾かぬ母が言った。きっと、全てのものを、どんな景色も全部、今の自分の目と頭に焼き付けておきたいのだろう。

私は車椅子を押し、一階の玄関から順に、全ての階を端から端まで母に見せてあげた。

いつか、ここに入院した時のことを思っているのか、それとも、若かりし頃かつて、病院で働いていた自分の姿を思い返しているのだろうか。

こよなくも 美し愛し

   煌めきの

すべての色を 魂(こころ)にとめん