午前中、30分ぐらいなら良いという約束をもらって、宮崎の弁護士事務所に向かった。
松葉は、挨拶もそこそこに免除率を80%で債権者にお願いするつもりだと弁護士に言った。
すると弁護士は、
「80%ですか。債権者集会で決まることですが、私は60%でも債権者の過半数の賛成は得られないと思います。無理でしょう」
言葉は丁寧だが、話の内容は厳しいものだった。
「先生、それ以上だと経営そのものが成り立たないように思います」
「債権者集会で過半数の同意が得られない場合は破産に移行することになりますよ。それでもいいですか」「先生、免除率を下げて途中で頓挫した場合でも、破産ということになってしまうのでしょう。一緒ではないですか」
「もし途中で再生計画通りいかない場合は、もう一度民事再生手続きを申請することだってできますよ」
「先生、そんなことをしたら、もう誰も信用してくれなくなるのではないのですか。今回は主要な仕入先の協力は得られていますが、2回も申請するということになると材料も売ってくれなくなってしまうのではないかと心配です」
「なるほど、しかし今回の債権者集会での過半数が得られなければ一歩も先に進めないですよ」
「それはそうでしょうが、先生、20%で過半数の賛成を得られる方法はないですか」
「先生」「先生」と藁にもすがる気持ちで“20%の免除率で過半数を得られることはできないか”とお願いしたが、どうやら無理なようだと悟った松葉はここで腹を括らざるを得ないと覚悟した。
松葉は帰社して、仙田に弁護士とのやり取りの一部始終を話し、「先ずは民事再生の申請を通すことだ」と言われたと言うと、仙田は、「民事再生がうまく行かなくなったので再度申請し直します、などと言っても債権者は納得しないでしょう。特に鹿児島第一銀行はそうでしょう。それ相応の理由がないと受け入れられないと思います」
「そうでしょうね。私もそう思います。専務、覚悟を決めましょう。20%で過半数の賛同が得られない場合は破産です」
「社長、会長に相談されなくて良いですか」
「会長は知らない方が良いと思います。会長に責任が及ぶことは避けたいと思います。現に会長は、鹿児島第一銀行の頭取に自分は今回の事態を招いた関東工場の事業について何も知らされていない、融資契約についても何も知らない。全くあずかり知らぬことだと言っていましたから。また事実、そうですから、敢えて言うのは避けましょう」
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