【前回記事を読む】中国・北京男児の流行は真四角な角刈り、タバコのポイ捨ては日常茶飯事…まさにカルチャーショック!
二
北京の大雪は年に一回か二回。積雪は三〇センチ。
竹箒(たけぼうき)は日本のと同じ大きさだが扁平になっていて、その面を広く地面に擦り付けて大きく円を描くように掃いた。雪は落ち葉ではない。雪掻きには向かない。
そこで角スコップの登場。背丈ほどの棒の先にスコップが付いている。これでは腕力に頼るしかなく、どうも力が入らない。
日本のは取っ手があって、それを太ももの内側に当てて股の力で押し出す。スコップ一本で二トントラック満杯に川砂利を放り上げることができるようになったのも、見るに見かねて文字通り、手取り足取りで教えてくれたおっちゃんがあったればこそ。このスコップワークができないと土工はできない。
何でもやって来たんだ。
郷に入っては郷に従えというけれど、もう懲り懲り、雪掻きを手伝うのは一回でやめにした。
そんな北京の週末にあろうことかの大雪が降ったからみんな大喜びだ。景山へはさすがに自転車は無理で歩いてやって来た。
いつもより人出が多い。カメラを手にぶら提げている人が何人かいる。デジカメはまだ。
お目当ては紫禁城の雪景色。
合唱を途中から抜けて、頂上までの残り半分を登った。紫禁城を見下ろす。
「紫禁城じゃなくていまは故宮博物院というのよ」
いつものようにおばちゃんたちが知識の補正をしてくれる。
頂上からまっすぐの急坂を下ったら自由ダンスの広場だが大雪では滑って駄目なので、なだらかなスロープを北海側にゆっくり下って、周回路の反対側に出た。
右に行けば社交ダンスの広場、左に取って紫禁城の方へ回っていく。首吊り塚があった。
雪をかぶっていて何と書いてあるのかわからない。
「明の最後の皇帝がね、ここまで逃げてきて木の枝で首を吊ったの」
「誰に追われていたの? その木はどれ? もう枯れてしまったのかな」
そんな話をしていたら胡弓が聞こえてきた。おばちゃんたちの興味がそっちに向いてこの話もここまで。よくあることだ。
倍にも膨れ上がった大合唱団だったが昼前にはそれも解散して、気が付くと全山に人が溢れていた。
いつもの老人たちに混じってカラフルなダウンジャケットがあっちにもこっちにも。若いカップルがじゃれ合っている。雪合戦を楽しむ。