「き、気付かなかったの? ゴムに穴だなんて……」

「……ゴムを取ったのは悠希さんだったから」

「じゃあ、妊娠もあながち嘘ではないって事ね……。ね、どうするの?」

「俺からは堕ろして、なんて言えない。命を殺すような事は……」

「じゃあ、私達は離婚するの!?」

「離婚なんてしたくないさ! でも……!」

「『でも』、なんだ。それは悠希さんを取るって事?」

俊雄さんの大きな溜め息が漏れた。

「じゃあ、どうしたら良いんだ!? 彼女をシングルマザーにはさせられない……」

選択肢はもう最初から決まっていたのだろう。悠希さんと一緒になる事に。私に何が言えようか。離婚しないで? 悠希さんの元へ行かないで?

これは悠希さんのシナリオだったのだろうか。好きな人と一緒になる為に手段を選ばず、周囲の迷惑も顧みず、突き進む悠希さんの『愛』。

「別れるしかないんだね……」

「……ごめん」

「……でも本当に妊娠してるのかな? 嘘って可能性はないのかな?」

「どうやって確認すれば良い? 病院に付き添って超音波で見るとか?」

「そうだよ! 嘘だったら病院に行きたくないだろうし、実際に診察してもらって、それからでも私達の事は遅くないんじゃない?」

僅かな可能性に賭けるしかない。

「……そうだな。そうしよう」

その日、夕方に俊雄さんは悠希さんと会い、病院へ行って自分の子どもを見たいという話をした。悠希さんは何の躊躇いもなくOKし、そのまま産婦人科へと足を向けた。私は陰から二人の後を付いて行った。

産婦人科は大きな病院で、聞こえてくる会話から、悠希さんの父親の友達の病院である事が分かった。ますます嘘の妊娠ではないかと思えてくる。

二人が病院に入って行ったので、私も隠れて入って行き、待合室にいる悠希さん達の後ろに座った。

「ふふ、嬉しいですわ。俊雄さんが私達の子どもを見たい、って言ってくれて」

そう言って、悠希さんは俊雄さんの体に密着して満面の笑みを浮かべている。傍から見れば、仲睦まじい夫婦に見える程に。

こうも素直に病院に来るのは、妊娠しているから? それとも医師がそう言っているだけ?

色んな考えが浮かんでは消えていくが、診察を見ればそれで全てが分かる。でも、もし、もし本当に妊娠していたら、俊雄さんの子どもだったら、私はどうすれば良いのだろう? 素直に俊雄さんを譲る? そんなのは嫌だ……!

やがて悠希さんの名前が呼ばれて、俊雄さんと一緒に診察室へと入って行った。

十分後くらいに二人は診察室から出て来た。どうだったのだろう?

悠希さんは輝かんばかりの笑顔。俊雄さんはショックを受けているような表情をしている。

「ね? いましたでしょう?」

「あ、ああ」

「これで信じてくれますよね? 亜紀さんと別れて私と一緒になってくれますよね?」

「そ、それは。考えさせてくれ」

「あら、真実を知ったのですから、悩む必要なんてありませんわ」

次の瞬間、悠希さんが私の方を見た。

「亜紀さんもそう思われるでしょう? 何も隠れていなくてもよろしいのに。私は逃げも隠れもしませんわ」

「そ、その子どもが俊雄さんの子どもであるという証拠はあるの?」

「だって、私は俊雄さん以外とは、そういう事をしておりませんもの」

「……」

事実なら、私達は……別れないといけないの? 本当に事実なの?

父親の友達という医師の存在だけが、怪しく思えるのだった。

次回更新は2月8日(日)、19時の予定です。

 

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