大企業が事業創造で失敗する理由

ここまでで、大企業が立つステージ、持つお金、そして、属する人材という観点で、大企業の主たる特性について述べてきました。大企業がスタートアップとはまったく異なる構造体であることを理解いただけたと思います。

ここからは、大企業が新たな事業創造時に、その特性を理解せずに犯してしまう決定的な間違いについて述べていきます。

大きな既存事業を持つ大企業においても、継続的な成長が求められます。提供する製品・サービスは一定の周期でライフステージのサイクルが回っていて、いつかは衰える日がくるために、成長を続けるには、どこかのタイミングで新たな製品・サービスが必要になります。

いま、日本の多くの企業がその時期にいるのではないでしょうか。

成熟した事業で利益が出ている内に、再成長を託し得る新たな事業を興さなくてはいけない。

そうしなければ、時にゆっくり、時に一気に沈む船だと皆がわかっています。そして、誰かが新たな事業創造担当として任命されるのです。

ただ、大企業とスタートアップが別物であることを理解していないからか、もしくはその違いを知っているがゆえの憧れからか、担当者が最初にやることは、堅いスーツをカジュアルな服に変え、まったく別物であるスタートアップの事業創造手法を熱心に学ぶことになりがちです。

質が悪いのは、元来の真面目さにより、別世界の手法であるにも関わらず、正確にその手法を習得し、その通りに進めようとするのです。

しかし、参考書として大事に扱っているものは別世界を対象に書かれたものなので、早かれ遅かれ、つまずく瞬間が出てきます。参考書推薦のやり方でアイディアが出てこなかったり、出てきたアイディアが売上規模や自社の強みを生かすといった観点で、自社が求める水準をクリアできなかったり。

あるいは、参考書を何度も読んで仕上げた、チーム肝いりのバリュープロポジションキャンバスや、ビジネスモデルキャンバスが、レビュー者に理解されなかったり、興味を示されなかったりもするでしょう。

参考書通りに早くプロトタイプを作ろうとしても、承認を得ることができない事態に陥ります。そして、最も虚しいことにそれらのつまずきは参考書の世界では予期されていない出来事なので、参考書にはその原因も対処法も載っていないのです。