【前回の記事を読む】歯を削る前に知ってほしい。“自分の歯の未来”を守るという根本的な考え方
はじめに
推薦文
日本の歯科医療制度が抱える最大の課題は、国民皆保険制度の恩恵を受けながらも、その反面として、歯科医療が適正な評価を受けられないという現実。
そこで小生は2004年に上梓した拙著『歯科医療再生のストラテジー(医学情報社)』において、歯科医療の価値を正しく評価し、自由主義の考えを取り入れる必要性を提言してきました。
歯科医療は本来、時間と手間、そして医療者の高度な技術を要する行為でありながら、日本においては欧米諸国の10分の1、物によっては20分の1という低い価格に抑えられています。その歪みが、歯科医は“数でこなす医療”を余儀なくされ、結果的に患者の健康を損ね、歯科医療従事者の士気を削ぐ要因となっています。
このような問題意識を、共有する著者は真摯に受け止め、自らの臨床経験を通して深く考察しています。
本書は、制度の矛盾や課題を批判するだけではなく、患者一人ひとりの健康を守るという歯科医療の本質に立ち返りながら、自由診療が果たす役割と、患者の利益を最大化する手段としての価値を説き明かしています。著者の誠実な語り口と、歯科医療の未来を真剣に考える姿勢には、無資格の小生も深い共感を覚えます。
問題は、上梓後20年を経ても歯科界を取り巻く状況が全く、変わりないこと。今こそ、歯科医療の本質を再評価し、制度疲労を乗り越えるには、現場の臨床家が声を上げ、患者と真摯に向き合う姿勢を示す必要があります。
著者の書は、まさにその先駆けとなる一冊と言えるでしょう。歯を削る前に知ってほしい。“自分の歯の未来”を守るという考え方これまで歯科医療に漠然とした疑問を抱いていた方々、そして歯科医療を志す若い世代にとっても、本書が一つの指針になることを確信しています。小生は、著者の志と努力に敬意を表し、本書を強く推薦いたします。
東京医科歯科大学大学院
医療経済学教授
川渕 孝一