【前回の記事を読む】「イテテテ! 痛いじゃないか!」あまりにも痛かった。手にはトゲが突き刺さり、血がプチンと出てきた。よく見ると…

一 清水の爺じいちゃんとの出会い

「正夫、ビックリしたろう。これは『ワルナスビ』、という植物だよ。こいつは可愛い顔をしていながら、驚(おどろ)くほどの悪(わる)なんだよ。人間にもいるだろう。強い者にはペコペコし、相手が弱かったり大人(おとな)し過ぎたりするとつけ上がってくる奴(やつ)らがいるからなア。

人間というものは、思いのほか卑怯(ひきょう)なもんだよ。正夫の柔(やわ)な手では、ワルナスビの棘(とげ)にやられてしまうよ。ほら見ろ! もう、血が出ているではないか。駄目(だめ)だよ」

と言いながら、正夫の手の血が出ている指をティッシュで拭(ふ)いてくれた。

そして、ワルナスビについて説明してくれた。

「このワルナスビは、凄(すご)いもんだ。自分を動物などの外敵(がいてき)から守り、生き抜(ぬ)くために棘を生(は)やしているんだ。武器(ぶき)だな。棘だけではないぞ。体中に毒(どく)を持っているんだよ。

どうだ正夫、お前は自分を守るために自分らしい武器を持っているか。生き抜くにゃ、少しは棘や毒を持っていいんだよ。この世に百点満点(ひゃくてんまんてん)の人間、つまり聖人君子(せいじんくんし)なんて一人もいやしないんだよ」

正夫は、ただうなずくことしかできなかった。

「俺は、いかにも悪そうに棘や毒をいっぱい持っているように見えながら、心は花のように美しいけれどもナ。そう感じないか。ワハハハ」