おかげで、二匹は見違えるように変身した。立派に、上品に、美しく。やはりプロだ。トリマーさんの技量だ、と思った。
次衛門氏は、彼らのシャンプーをしている時に癒やしをもらっていた。それで、ずっと自分で彼らのシャンプーをするつもりでいた。でも寄る年波か、腰とかに危機感を抱いたのでプロに託したのだが、彼らにも良かったみたいだった。
七月の七夕を終えた頃だった。朝の天気予報で「今日は雷雨があります」とアナウンスしていた。次衛門氏は折りたたみの傘でなく、いつものように長くて重いしっかりした出来の昔風の傘を持って家を出た。
昼過ぎに、予報通り雷が鳴り、激しい雨が降ってきた。それは次衛門氏が考えていたよりはるかに長くそして激しく、かなりの度合いで雷はピカピカごろぴかごろごろと鳴り続けた。
次衛門氏の作った犬小屋は彼の庭の乾いた位置に置かれていた。犬とて野生を持った生き物だとして、次衛門氏宅に何らか近づいた人にアイアンが悪さをするかもしれない。
それで他人さまを防御する囲いを、と次衛門氏はまた自分なりに工夫したアイデアでその犬小屋の周りを巡らせ、アイアンの心地良い場にと虫よけの網でおおった。
アイアンに犬小屋での生活はストレスだったのか、彼は小屋の付近に穴を掘るようになっていた。それがアイアンのストレスからとは、その時、次衛門氏には見えなかった。
次衛門氏はその度に、アイアンが幾つ穴を掘っても、ただ、ひたすらにスコップを持ってきて埋めた。アイアンはよく仕事を作ってくれるよ、とぼやいた。
今回はその穴を埋めるのをうっかり忘れていた。雨水が溢れていた。早速次衛門氏は水をかき出して、穴に土を入れた。アイアンはそんな時、次衛門氏を遊び相手にしようとするので、犬小屋から出しておいた。
鎖でしっかり繋いだはずが、はずれた。アイアンは解放されたように玄関から外へ向かった。
「アイアン、戻っておいで」
アイアンはあわてて自分を追いかけてくるご主人を遊び仲間のようにはしゃいで後にした。
えらいことになった。もう姿が見えない。次衛門氏は他人さまに何か問題をしでかしてはと直ちに保健所に捕獲をお願いした。
何しろ鎖が外れたことは次衛門氏のミスなので、電話の向こうの保健所の人にひたすら詫びた。
アイアンは一体どこへ行ってしまったのだろう。ピッケはそんな日も相変わらずの食欲だった。
次衛門氏は時間を作ってはアイアン探索にあてた。しかし、何日経ってもアイアンの消息は掴めなかった。誰か犬好きの人の家に置いてもらっているのかな。アイアンは結構あれで可愛い顔をしていたし、おとなしい犬だったし、人慣れする性格だったから。日にちはずんずん過ぎていった。