【前回記事を読む】「其の人間の姿は、現実の世界とは余りに違う…」不思議な出会いに導かれた祖父が目にした世界とは――

第二章 祖父の行きし天上界

天と共に森を出た義継が後ろを振り返ると、出た森は緑一色だ。どうして中に入ると、薄紫色一色の世界なのか? 何故なのかと思いながらも不思議な森として心に残った。

義継は更に天に連れられ草花がまばら咲く草原を進んで行く。そして右側の遠方には森が見える。しかし、其方には向かわない。進んで行くと、綺麗な川が見えた。其の川は其れ程に大きくはない。童謡の『メダカの学校』で歌われる川より少し大きめの川だ。

「此処ですか?」

義継は天にそう尋ねる。

「いや、違う。見せたいのは、もっと先だ」

「そうですか。でも、此の川は気に入ってます。眺めながら進んで行きます」「そんなに気に入っているのか。本当はもっと素晴らしい場所が先にはある」素晴らしい場所、どんな所だ。

どう想像を働かせようとしても、頭には浮かばない。それでも、周りの風景を見るだけでも素晴らしさを感じる。

見上げると青い空に白い雲が少しだけ見える。其の雲さえ美しく見える。遠くの森も美しいし草原に咲く花々も素晴しく美しい。此れだけでも充分だ。此の先に、もっと素晴らしい場所があると言うのか?

天と共に歩き続けていくと、草原の向こうに黄や赤い色の何かが見えてきた。遠くからだから、はっきりしないが、そうした色の花園ではないのか……? 更に少しずつ近付いていくと、間違い無く花園であるのが分かる。もしかして、今共に歩いている天が言ってたのは、あれではないのか?

「ねぇ、見せたいのって、あれでは?」義継は思い切って尋ねてみる。

「そうだ。今まで見た景色より素晴らしい。其れと同等なのは、薄紫色の花の森かな」それからも少し歩いて近付いていくと、黄と赤の鮮やかな花園が広がってきた。

更に進めば、前が全て黄と赤の色彩に覆われた世界だ。花の形さえ、はっきり見えてきた。

南アフリカの砂漠には、年に一度雨が降り鮮やかな色彩の花園が出現する所がある。色も、此れと変わらない。確か、ナマクアランドと呼ばれていた。

遂に周囲三百六十度そんな色彩に覆われた世界の中に入った。体をぐるりと廻転させて何処を眺めてみても、黄と赤の鮮やかな色彩の世界だ。本当に天の世界だ。

「此処、一年じゅう、こんな花園のままなんでしょうか?」此の場所がずっとそうでありたいと、義継は思った。