【前回記事を読む】「宗教による食の制限には、反対だ」場所によっては肉しかない。肉を、食わねばどう生きれば良いのか?

第二章 祖父の行きし天上界

此の豚肉、中々良いな。肉が柔らかく質が良い。何処の店で買ったんだろうな。婆さんは近くの個人スーパーで買ったと言ってるが、場所は何処だろうな? そして豚の生姜焼きの味を堪能する食事は終わった。征一は此の味には満足だ。

仏間に戻った義継と征一。征一は爺さんが此れから何を話すのだろうかと気にかけていた。もしかして、信じ難い此の世の出来事とは思えない事なのか?

「儂(わし)の若い頃、それも婆さんと結婚する前で、一人暮らししていた頃の事だ。それである夜、寝ていたところ、どういう訳か早く目を醒ましてしまった。まだ外は暗い。目を前に向けると、不思議な人間が立っていた」

征一は"不思議な"と聞けば、余計に何なのかと興味を持つ。

「其の人間の姿は、現実の世界とは余りに違うので、目を醒ませば、本当に夢の中で見ていたと思ってしまう」

更に、義継の話は続く。聞く方の征一も、其の風景を想像する。目が醒めたと思い込んだ義継は目の前の人物を見る。其れも間近だ。

其の姿、若い男でギリシャ人の顔立ちをしてる。着ているのは、古代ギリシャの衣装だ。其の服の色は白。背中からは白い大きな翼が出てる。其れを広げれば、何れ位の幅になるのかと考えを巡らせた。そして其の者の下を見れば、古代ギリシャのサンダルを足に履いている。

「後ろを見ろ」

其の者が急に指で示した方を見る義継。

「あっ」

義継はそう一言を声に出し、まだ寝ている自分の姿を見て驚く。

「今、そなたは夢の世界に居る。此れからある世界に連れていく。必ず、元の世界に戻れる」

「別の世界に行っても、戻れるって事ですか?」

此の時の義継には、戻れるかどうかの不安があった。相手が戻れると言っていても。

「そなたが目を醒ました時が、戻った時だ。付いて来い」

此の不思議な者は、右腕を前方に伸ばし、其の手の平を前に向けた。其の前方に、縦長の楕円形の穴が空間に開いた。其の穴は黒い色をしている。

「こん中に入るんですか?」