第5章 ふる里の岸を離れて
別世界に飛び込んだ珠輝
小雨の中、親子三人は盲学校の門をくぐった。珠輝は別の部屋に連れていかれ再び知能テストを受けさせられた。テストは幾分学校の方が難しかった。それでも教師の眼鏡にかなったのか学齢の小学三年生に入学が決まった。
本人にとっては一年生から入れてもらった方がよかったのだが、両親にとって娘が学齢で入れたことは望外(ぼうがい)の喜びだった。
珠輝はほんの一瞬親孝行できたのだ。彼女は中原先生という男性教師に三年生の教室に連れていかれた。この教師は小学部の主任で珠輝たちの副担任だった。担任は全盲の家庭持ちの松元秀子先生だった。
彼女は社会で活躍していたところ視力を失い、さらに子供一人を置いて最愛のご主人が他界されたという気の毒な人だった。さてこのクラスに珠輝の他にもう一人男の子が一緒に入学した。彼はかなり視力があり、やはり嘉麻(かま)市の出身だった。席に着いた二人が自己紹介するとみなも自己紹介してくれた。
一緒に入学した子は大原明雄君と言った。これで珠輝のクラスは小学部では最も多く十四名になった。やがて松元先生が珠輝の机の前に来て、「丸山さん手を出してください。」と言った。
珠輝が手を差し出すと大きな板と金のような物とキリの短いような物が渡された。
「これは点字板と言って私たちはこれで点字を書いて勉強するのですよ。あなたも早く点字を覚えましょうね。」
そう言って先生が渡してくれた物はなんと大きくてかっこの悪い物だろうと珠輝は内心がっかりした。
試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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