「おいらは見ていたんだ。あの日、君(きみ)の弟は、死(し)んでしまったのかい?」

彼(かれ)はこたえた。

「マナ君(くん)だね。そうなんだ。ぼくがアベルを本当に殺(ころ)してしまったんだ。父さんや母さんがそのことを知ったら、ぼくのことを許(ゆる)してはくれないだろう。

だから、神(かみ)さまはぼくに旅(たび)に出るように言ったんだ。父さんや母さんだけじゃなくて、殺人者(さつじんしゃ)のぼくは、きっとみんなからも恨(うら)まれるだろう。だけど、神(かみ)さまが守(まも)ってくれるんだって…………

ぼくは、ここに来て気づいたんだ。大地が作物(さくもつ)を育(そだ)ててくれていたことや、ぼくのことを神(かみ)さまが見ていてくれたことや、アベルが本当に神(かみ)さまに感謝(かんしゃ)していたってことにもさ」

おいらは、たずねてみた。

「ところで、君(きみ)は今、幸(しあわ)せかい?」

彼(かれ)は、ほほえみながらこたえた。

「うん、神(かみ)さまは、ぼくにも息子(むすこ)を授(さず)けてくれたんだ。とっても手先の器用(きよう)な子で、農作業(のうさぎょう)をするのを助(たす)けてくれるような道具(どうぐ)を、色々と作ってくれるんだよ。『手なんて無(な)かったらよかった』なんて言っていたぼくなのに、本当に神(かみ)さまに感謝(かんしゃ)しているよ」

そう言った彼(かれ)の瞳(ひとみ)には、以前(いぜん)には無(な)かった光があったよ。

その時、神(かみ)さまからの最初(さいしょ)の言葉(ことば)をおいらは思い出した。

“人は、心から感謝(かんしゃ)することで、生きる力が強(つよ)くなるようにつくった”

おいらはまたとても眠(ねむ)くなって、寝(ね)てしまった。

 

👉『マナ~ズメモリーズ』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「私を抱いて。貴方に抱かれたいの」自分でも予想していなかった事を口にした。彼は私の手を引っ張って、ベッドルームへ…

【注目記事】てっきり別れたかと思ってたのに……。夫の不倫相手にメールしたところ、「奥様へ」と驚く内容の返事があり…