【前回記事を読む】【アダムとイブの原罪】子供でもわかる、はじまりの物語
【イブが抱(だ)いていた男の子との出会い】
すかさず、彼(かれ)がつぶやいた。
「ぼく、こんなことやりたくないから、それでもいいや」
また、おいらが言ってみた。
「じゃあ、足はどうかなあ? おいらは、歩けないから、君(きみ)がとてもうらやましいけどなあ?」
自分の足を見つめながら、彼(かれ)は言った。
「ぼく、こんなに動ける足が無(な)くてもいいや。だって足があるから、父さんにこんな仕事やらされるからさ」
おいらは、たずねてみた。
「じゃあ、どうして君(きみ)は、お父さんから頼(たの)まれた仕事をやろうとしたの?」
「それは、父さんがとても怖(こわ)いからさ。それに、母さんがほめてくれることも嬉(うれ)しいなあ」彼(かれ)は、頬(ほほ)を赤らめて言った。
「そうなんだ。お母さんは、どんなことを言ってくれるの?」
っておいらがたずねたら、彼(かれ)は、声を大きくして言った。
「『カインのおかげで、美味(おい)しい作物(さくもつ)を食べられるよ。ありがとうね』って言ってくれるんだ。そんな時、ぼくはとても自分がほこらしく思えて、嬉(うれ)しくってしかたないんだ」
おいらは、心の中で思った。
“本当は、実(みの)りを与(あた)えてくれる大地や環境(かんきょう)を神(かみ)さまが与(あた)えてくれているから、作物(さくもつ)が実(みの)るのになあ”
でも、そう言っているカインの顔は、とても輝(かがや)いていたよ。
彼(かれ)は、声を高くして、
「ねえ、君(きみ)に教(おし)えてあげるね。ぼくはもうすぐ兄(にい)さんになるんだよ。どんな弟なんだろう? ぼくがちゃんと、色々なことを教(おし)えてあげなくちゃあいけないね」と言った。
おいらは、毎日、畑(はたけ)の一角で、カインの様子(ようす)を見ていたよ。
弟のアベルにも会わせてくれたよ。
カインは、弟のアベルの世話(せわ)もよくしていたよ。
アベルもカインのことが大好(だいす)きみたいだったよ。
カインは、ブツブツもんくを言いながらも、そりゃあ一生懸命(いっしょうけんめい)に作物(さくもつ)を育(そだ)てていたよ。