陽化(ヤンファ)での立ち往生
帰任者等十三名と北の案内員二名を乗せた日本製の大型バスは、順調にサイトに向かっていたのだが、あと三十分ぐらいで着くというところで思わぬ障害に出遭ってしまった。
陽化(ヤンファ)の町外れを流れる小さな川で橋が壊れている(昨年八月から放置されている)。川を渡らなければならないのだが、川面が凍っていてその下がどれだけ深いのかわからないため、怖くて渡れないとのこと。
しばらく安全な道を探していたが、やはりサイトに助けを求めることになり、電話もないため、たまたま通りかかった車に便乗して連絡を取った。そのため現場で三十分ほど待たなければならなかった。
韓国製のジープが五〜六台列をなして現れた時は「これで助かった」と思った。「ジープ軍団」は、KOKの徐(ソ)代表(軍団長?)の指揮下でてきぱきと「救助作業」に入り、あっという間に我々を温かい古巣まで運んでくれた。
そんなわけでサイト到着は夜十一時三十分ごろとなった。きらきらと輝く大きなクリスマスツリーが我々を歓迎してくれているようだった。
サンタが来ない理由
食堂や事務所で久しぶりに再会する韓電建設本部、施工企業団職員と無事帰任した旨挨拶を交わす。私を見て顔色が良くなったという人が多かった。事務所や宿舎のカレンダーを今年のものに替え、事務所の机の上にニュージーランド(ミルフォード・サウンド渓谷)で妻と一緒に撮った写真を飾ることにした。
K医務室長は、私の留守中に自分のところにはサンタクロースからプレゼントが届いたが、北の住民にはサンタが来なかったようだとして、その理由を教えてくれた。
⚫ぼんくら外交官のつぶやき⚫
「北朝鮮にサンタクロースがやってこないって本当ですか?」
私が日曜日ごとに礼拝に通っていた新浦(シンポ)教会(住居地域内にあるプロテスタント教会)の信者たちに聞いてみた。教えられた深刻な事情は次のとおり。
北の案内員の乗る席がない(*サンタも案内員同行なしでは国内で移動できない)。
(暖房用の)煙突が小さすぎてどの家にも入れない。
八頭のトナカイがあの重い金日成バッジをつけてはそりを引くことができない(*金日成バッジなしでは道路を通行できない)。
北の税関があらゆるプレゼント袋を開け、いちいち手探りで細かく検査する。
北の子供たちが(空を飛ぶ)存在として信じているのは人工衛星でサンタクロースではない。
北の思想体系には、大きな顎ひげを生やし赤い服を着た人物は、カール・マルクス以外にはいない。昨年サンタクロースが南に向かって出国する時に持ち出そうとした北の印象記のため、一時拘束されたことがある(*北にとって不都合な真実が書かれていた?)。
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