認めるのは悔しいが、西海は私の性格や得手不得手を理解したうえで、勉強が苦手な私が逃げ出さないラインを見極めて丁寧に教えてくれている。そんな配慮に満ちた教え方をしてくれる西海を見捨てるなんてとんでもない。

田中先生だって、私がカンニングをしたわけじゃないってようやく納得してくれたのに。西海なしで次のテストに臨もうものなら露骨に点数が下がって、やってもいないカンニング疑惑が再浮上してしまう。

「なんでぱっと見で間違いがわかるの、すごくない?」

「シロクマが並んでる中に白猫が一匹いたって、猫を熊と間違えたりしないだろ。スペルミスもそれと同じだ。見慣れていればすぐに気づく。見間違えるとしたら、その目は節穴だな」

「悪かったね、節穴で。両目1.5の節穴で」

「冗談だ。北田の今までの傾向から、ここはスペルを間違えるだろうなと当たりをつけていた。この文、onの位置がおかしい。もう一度例文を参考にしてやり直せ」

節穴は冗談っていうか、もう悪口だ。この間、西海に紹介されて初めて話した東堂一彦は噂に違わない好青年だったというのに、その友人はこんなにも性格が悪い。類は友を呼ぶという諺に難癖つけたい心境だ。

しかし、デート。気が進まない。東堂側の視点では普通にカップル二組で遊びに行くくらいの感覚で、西海の視点だと二人のデートに私を引き連れていくくらいの感覚なのだろうけど、私の視点だと三角関係の中に部外者一名が割り込む形になるのだ。普通に気まずい。やっぱ、なしにならないかな。

「いまさらだけどさ、東堂って南さんと付き合ってるわけじゃん」

「何を当たり前なことを言ってるんだ。だからデートに行くんだろうが」

「西海的にはそれってありなの? 気まずくない?」

窓の外を眺めていた西海がこっちを見た。窓の外はグラウンド、部活中の東堂の姿がある。勉強会の場所に図書館を指定したのは、東堂の部活姿を見られるからなんだろう。

「質問の意図がわからん」

意図としてはダブルデートを考え直してほしいというだけの話なのだけど、そんなことを馬鹿正直に言うほど私は馬鹿ではない。万年赤点な人間だけど馬鹿じゃない。

「いや、だからさ、好きな人に彼女がいるのって普通嫌だったりしない?」

こう言えば西海も多少考えてくれるだろう。今のこいつは東堂のデートを間近で見られると喜んでいるけど、好きな相手が自分以外の相手とデートしていたら少なからずショックを受けることになる。冷静に考えれば行くべきではないと思うのだが。

ああ、と西海は納得したように声を漏らす。

「南なら許せる。それだけだ」

許せる。

許せる? 許せるって何?

 

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