「ああ、ここじゃ、ここ。名前も合っておるし、どうやら間に合ったわい」

書付にある、大滝村、小堀小夜十七歳はこの娘だった。

鬼の今日の仕事は、亡くなったこの娘のお迎え。体を離れた魂が迷ってしまわないうちに、速やかに閻魔様のもとに連れていくことだったのだ。

「お小夜、お小夜、可哀そうな私の娘。まだこれからだというのに」

お小夜の父と母はさめざめと泣き崩れていた。

本来ならば死者の枕元に控え、抜け出てくる魂を直ちに連れ出すところなのだが、鬼は食事をする間もなく一日中走り回っていたため腹がすき、さっきから目が回りそうだった。

娘の遺体を寝かせている隣の部屋には、神棚の前に豪華な食事が供えてあったが、父親が村一番の占い師に、「娘の病を治すには神様にご馳走をお供えするがよかろう」と言われ調(ととの)えていたのだ。

旨そうな匂いに誘われ、鬼はふらふらと隣の部屋に入っていき、いくつも並んだ膳にたまらず手を出していた。

両親は亡くなった娘の枕元から離れられず、ほかの者はみな葬式の支度に忙しく立ち働いていたため、隣の様子を気にする者はなかった。

鬼はあれよあれよという間にご馳走を平らげ、空になった皿や茶わんが積み上がっていく。たとえ覗いてみたとしても、鬼の姿が見えるのは死者のみだ。不思議に思っても誰も注意を向けなかっただろう。

「ふっー喰った喰った。もうこれ以上は喰えん。それじゃ、仕事に取りかかるとするか」

腹を満たした鬼はようやく立ち上がった。ところが、なんと娘が鬼の前に立ちはだかっているではないか。