「うわっ、な、なんじゃ、おどかすでない」
娘は亡くなるとすぐに隣の部屋の異変に気付いていた。
「ちょっとちょっと、お前さまは、わたしの家の神様のお供えを勝手に食べてしまいましたね。仮にも神様に捧げたものですよ。それはとっても、まずいんじゃあないんですか? 閻魔様に言いつけますよ」
鬼を相手に強気の娘だった。
「閻魔様に」と言われて鬼は寒気が走った。
「そ、それはかんべんしておくんなさい。また雷を落とされる。ワシの命だって、あやういがな」
「ふん、そんならわたしの言うことを聞くのよ」
娘は庄屋のひとり娘。ずっと自由気まま、わがまま放題に育てられていた。
「わたしはまだ十七よ、死ぬには若すぎる。まだ、ぜんぜん遊び足りない。ねえ、隣の村に同じ名前のばあさまがいるから、わたしの代わりにそのばあさまを連れていきなさいよ」
「なんと……」驚愕する鬼だったが、仕方ない。鬼は隣村へ向かい、娘の言う通り同じ名前のばあさまを連れていくことにした。
百歳をとっくに超したばあさまだったから、突然死んでしまっても「年も年だし」と誰も疑わなかった。
そうして鬼は閻魔様の前にばあさまを引き出した。
ところが、閻魔様はお見通しだった。鬼に一喝、
「なんたることじゃ。そんなことがまかり通ると思っておるのか!」
「へへえーっ、申し訳ございません!」
慌てて取って返したが、ばあさまの体はもう荼毘に付されてしまっていた。そして、自分の体に戻ろうとしていた娘は捕らえられ、有無を言わさずそのまま地獄送りになった。
「あたしは嫌よ~、まだこんなに若くてきれいなのに死んでしまうなんて~。お願い見逃して~」
娘の声は誰にも届かなかった。
荼毘に付されたばあさまはどうしたかというと、閻魔様のご命令で娘の体を使うことになった。
こうして、亡くなったはずの娘が息を吹き返したから、娘の父も母も今度は嬉し涙に泣き濡れた。
ご馳走はすっかり平らげられていたから、これは神様のご利益、あの占い師のおかげだと、神棚にはまたたくさんのお供え物が捧げられた。
元気になった娘は人が変わったように、穏やかなよく働く娘になり、父も母も大いに喜ぶこととなった。
その後、鬼がどうなったのかは誰も知らない。未だかつてない雷が落とされたことは言うまでもないが、めでたしめでたし、これにて一件落着。
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