「顔もわるくないしが、最大限の賛辞だろうな」と独りツッコミしたくなったが、プライベートにずかずかと土足で無遠慮に入り込んでくる異星人のような関西のおばちゃんは一事が万事疲れた体に煩わしいことこのうえない。疲れが倍増したことはいうまでもない。

まったくもってして独身寮は自分の部屋しか安寧の城はなかったのだが、そこさえも休日ともなると一升瓶を持った招かざる独身寮の主のような古参先輩社員に占領される態には辟易とするよりなかった。

不幸にして裕三の部屋は二階の角部屋であったが、階段上がってすぐであったため、部屋に灯りがともり裕三の在室が確認される時は、深夜でさえ酔っ払いの津久井に襲撃されることも度々であった。

もう五十の声を聞く手前であるのに独身で、この寮の完成と同時に住みついているらしい独身寮の最古参で、関西の支店を振り出しに近隣の営業所を渡り歩いている渡り鳥だ。

ギターならぬ一升瓶を背負った渡り鳥といったほうがふさわしいほど酒にだらしない。呑みだすと際限なくほとんどが仕事の話で説教が始まる。

「だいたいお前、新入社員なんやから」が枕詞で、会話が始まると一升瓶を手に据わった眼で、なかなか解放してくれない。水曜日の「ノー残業デイ」は帰属する明石の営業所からはるばる大阪支店まで酒宴の音頭をとりにやってくる。おまけに組合活動にも積極的で、出世とは潔いほど無縁である。

支店に集結した後は近隣の居酒屋を振り出しに、流れ流れて十三のホルモン屋でゴムのようなアテを肴に終電を逃すと、店の韓国人のオモニに「お客さ~ん、オワリ、オワリ」と追い出しをくらうように放り出されたあげく、タクシーに押し込められてほとんど正体不明となって独身寮の自室の万年床で胸糞悪い朝の目覚めを迎える、という水曜日のノー残業デイの思いもよらぬ悲劇となる。