昔、房総半島から富士山が美しく見える海沿いの場所に、鋸山(のこぎりやま)という恐ろしく切り立った岩ばかりでできた山がありました。
その山の麓に小さな茶店があり、3人の姉妹が手作り団子を売ったり、落花生の煎り豆をお酒のアテに提供したりしていました。
団子も煎り豆も随分と評判が良く、鋸山に登った帰りにお土産に持って帰る人もたくさんいました。3姉妹は「長寿」でも有名でした。長女は103歳のマツ、次女は102歳のタケ、三女は101歳のウメという名前でした。
3人とも大病もせず元気に過ごしていましたが、さすがに100歳を超えてしまうと寄る年波には勝てなかったのか、不思議なことにほとんど同時期に亡くなってしまったのです。
3姉妹は冥途(めいど)の川を手を繋いで渡り、閻魔大王の前に呼ばれました。3姉妹は間違いなく真面目に生きてきたので、当たり前のように極楽に行けるものだと思い込んでいました。しかし、閻魔大王がかなりのへそ曲がりで、
「こりゃ! そこの3姉妹、たかが100歳を超えたくらいで偉そうにするんじゃないぞ。ワシは閻魔大王としてもう8000年も生きておるのじゃ! さて、お前たちをどうしたもんじゃろ?」と言ったのです。
その言葉を聞いた3姉妹は頭にカチンときて怒り出しました。
「何を生意気なことを! 人間様が100歳を超えるまで生き続けてきたことは大変なことなんじゃ! お前のような中身が空っぽな閻魔大王に地獄か極楽に行くかなんて決めて欲しくはないわ!」と三人揃って言いながら冥途の川を逆に渡り、この世に戻ってきてしまいました。
3姉妹はまず成田山新勝寺に行き「私たちを手助けしてくれる者には一生困らないだけの団子と落花生を進呈します!」と看板を出しました。
「ただし条件として、人間より長生きできる生き物であること!」と記しました。
いろんな生き物たちが面接に来ましたが、採用されたのは1万年生きている亀と千年以上生きてきた鶴とどんな高温の火の中でも死なないクマムシの3匹でした。3姉妹はその3匹をお供に連れて、またまた冥途の川を渡り、閻魔大王のいる所までやって来ました。
閻魔大王の前に呼ばれた時、3姉妹と三匹の生き物は声を揃えて言いました。
「閻魔大王様! 私たちの年齢を合わせたら1万1320歳! たかが8000年生きたくらいで偉そうに言わないでください! 私たちを地獄と極楽のどちらに送ってくださるのですか? でも、亀と鶴とクマムシは現世に戻してください!」
あまりの迫力にさすがの閻魔大王も驚いてしまいました。
「参った! 参った! まさか、また家来を引き連れてここまで戻って来るなんて! お前たち3姉妹は今まで出会ったこともない大物じゃ! ぜひ、極楽で余生を楽しんで下され!」と、超特急のグリーン席のチケットを渡し、極楽に3姉妹を連れて行くように家来たちに命じました。
「3人寄れば文殊の知恵」と言いますが、300歳姉妹の知恵と行動力はまさに文殊超えと言えるかもしれません。閻魔大王を言い負かした話は、現世に戻ってきた鶴・亀・クマムシによって全国に伝えられました。極楽に間違いなく行くためには100歳以上まで長生きしないといけないという話はどんどん広まり、長寿ブームが到来したというお話です。
オ年寄リハ知恵ノ塊 ツルカメカメムシ従エテ 閻魔大王ヤッツケロ 長生キスルダケジャ能ガナイ 知恵ヲ活カシテ頑張ロウ