【前回記事を読む】"問題行動"は犬のSOSだった——山暮らしで見えた「自然と共に生きる」犬との本当の向き合い方とは

プロローグ オポと卵

ある日、いつものように山の学校の裏側にある山、希望を込めて尾歩山と名付けた山の道を歩いていました。

八歳を過ぎたオポは、私よりも山を知り判断を間違えない確かな存在となり、山歩きのときは私の前を歩いていました。オポが歩けば私が続き、オポが止まると私も止まります。

環境が大きく変化する場では、オスワリをして環境が安定するまで座ったまま、異変を感じると立ったまま止まり、歩く速度はゆっくりでした。

歩き始めてやっと一合目を登ったところで、オポが急に立ち止まります。オポが立ったまま止まるときは環境に何か変化を感じたときで、なぜ立ち止まったのか様子をうかがいます。

よく見るとオポが地面のほうに少しだけ鼻先を向けて、何かのにおいを集中して嗅いでいます。足は地面にしっかりとつき、体を動かそうとはしません。

嗅ぎ終わると地面のある一点に鼻先を向けて、じっと立ち尽くしています。犬の真後ろから見ている私には、オポが何に顔を向けているのかが見えないのです。ただ、こういう姿勢のときは「あるものを見つけた」というシグナルです。

その鼻先からまっすぐに線を引いた地面に落ちているものを見たとき、そのものにビックリしました。オポを追い越して落ちているものに顔を近づけてよく見ましたがやはり……。

「オポ、これは卵だよね」と言うしかありません。

どうしてこんなところに卵が落ちているのだろうと考えることは、今は必要ありません。