2―4 ソフィアに仕える女神リリス
宮殿に戻ったミカエルはルシフェルを探したが広間には姿がなかった。
最後に別れた場所に戻ってくると、美しい女神が何やらぶつぶつ独り言を言いながらグラスをていねいに拭いていた。ミカエルの姿に気づくと手を止め、頭を垂れた。
「顔を上げよ。そなたは?」
女神は顔を上げ、微笑んだ。
「私はソフィア様のお世話をさせていただいているリリスと申します」
「ではリリス、我が兄ルシフェルはどこにいるのだ?」
リリスは少し怯えながら答えた。
「ルシフェル様はソフィア様と一緒にソフィア様の寝室に入られました。ルシフェル様がお酒に酔われたらしく、休ませるからと仰せられて」
ミカエルは辺りを見回し、寝室を探した。
「ミカエル様、なんぴとも寝室には通すでないと命じられております」
聞き耳を立てていたガブリエルの顔がにやけてきた。「さては……」
「ソフィアの寝室はどこだ。案内するのだ!」
リリスは広間の奥の黄金色の扉に目をやった。ミカエルはリリスを払い除けて扉に向かった。
「ミカエル様、何をなさいます? 私がソフィア様に叱られます」
ガブリエルは慌ててミカエルの腕を掴みとどまらせた。
「ミカエル、子供は明日にでも見せればよいではないか。我らももっとアダムたちを観察しておかないと」
二人に諭され、ミカエルは渋々広間に戻った。
ラジエルに抱かれているアダムが、目の前でぶらぶらしているラジエルの髭を楽しそうに引っ張った。
「イテテテ!」
ラジエルの何とも言えない表情を見て皆が笑った。ミカエルにも笑顔が戻った。「その小さな生き物は何ですか?」初めて見る何かに戸惑いながらリリスが尋ねると、
「神から授かった人間の子供だ。ラジエルが抱いているのはアダム、こっちはまだ名がない」と、ヤハウェが答えた。
「神から? 人間? 子供?」
リリスは怪訝そうな顔をしてアダムに近寄り、おそるおそる頬を撫でた。
「とても柔らかいわ」
アダムは急に頬を触られて驚き、リリスの顔を見た。しばらく見つめた後、恥ずかしくなったのかラジエルの胸に顔をうずめた。
リリスは、今度はヤハウェが抱いている子に目を向けた。眠っていたので頬を優しく撫でると子供は目を覚まし怪訝そうにリリスを見たが、すぐに笑顔を見せると、両手を出してリリスに抱きついてきた。突然のことにリリスはびっくりしたが、しっかりと受けとめ抱きしめた。
その様子を見ていたアダムが突然口を開き、一言声を発した。
「イヴ!」
アダムは大量の汗を流し、そのまま意識を失った。
「声も出せるのか! うん? 何だか少し大きくなった気もするが」
ラジエルはアダムを抱きかかえると部屋に入った。
「イヴ?この弱い生き物を神はどうされようというの?」
リリスはイヴを見つめながら困惑し、その場にしゃがみ込んだ。こうして夜も更け、歓迎の宴は静かに終わりを告げた。
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