敷地の周辺には新築の戸建て住宅が並んでいる。前面道路の向かい側には畑が広がっていて、小川もあるのどかな場所。アパートの敷地の入り口には手書きの看板がある。

『ペットがいます。ご注意ください。外部者が怪我を負われても当方は責任を持ちませんので』厚手のべニヤ板に墨で書かれた看板がネットフェンスに立て掛けられている。これはペット愛好家の大家さんが書いたものだ。入居時の契約書には『ペットの飼育に際しては、常識の範囲内でお願いします』とだけあった。

十世帯が住んでいて、どの部屋にも犬か猫がいる。そのため多少の鳴き声はお互い様。文句や不平を言う人はいない。休日の朝はペットを脇に抱えた住人の挨拶する声が目覚ましとなっている。

「小太郎君、散歩が嬉しそうですね」

「こんにちは。マリアンちゃん」

そんな声が外廊下から聞こえてくると、チワワのガッキー君の垂れた左右の耳がアンテナとなってピクリと動き出す。くりくりした瞳が開き、首筋がピンと立ち上がる。その後ベッドで睡眠中の翔太の寝顔を観察している。掛け布団をシェアしているため、相手の動きには敏感なのだ。

――ワウー。ガッキー君の口ごもった掛け声で、翔太はそろそろ起きようと踏ん切りをつける。休日の朝はペットとの散歩と食事が重要なルーティーンとなっていて、たっぷりと時間をかけている。

その後は何をするでもなく、翔太はアパートでペット二匹と過ごしている。目的もなく、だらだらと時間を過ごしている。しかしその時間は宝物なのだ。一緒にいることが楽しい。

ショッピングや食べ歩きなどには興味はない。取り立てて欲しいものはないし、食べたいものは自分で何でも作れる。高価な食材にはあまり興味がない。何を考えているのかな?など二匹と過ごす時間が何よりも楽しみなのだ。

 

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