「観阿弥の父は伊賀の御家人服部家、母が正成の妹、何でも長谷寺のご託宣とかで三男の観阿弥が役者に成ったとか。真偽の程は分かりませんが、兎に角、観世座が南朝方と通じている可能性は十分考えられます」
「ふん、もしわしが世阿弥に寝首を掻かれでもしようものなら末代迄の恥、女装のヤマトタケルノミコトに為て遣られた熊襲(くまそ)の様じゃな」
内心の動揺を悟られたくなかった義満は態とこう言い放って皆を大笑いさせた。
――観阿弥が己の出自を知らぬ筈はあるまいが、果たして世阿弥が知っているかどうか。何がどうあれ、わしは世阿弥を信じたい。仮令(たとえ)南朝の間者だとしても、南北朝の争いが無くなれば、わしを暗殺する必要も無くなるだろう――
東寺に陣を構えた時点で、既に義満は世阿弥を家に帰していた。南朝方との関係が明らかになった今、そう簡単に室町第に呼び戻す事は出来無くなってしまった。
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