この先生はマリアという名前だそうです。母さんは、慎ちゃんと譲二ちゃんをこのマリア先生に紹介したあと、まち子ちゃんの手を引いてさっさと帰ってしまいました。
結局、教室に残ったのは、慎ちゃんより少し年下の子どもたち数人と慎ちゃんたち兄弟だけ。きっと来ると思った友だちはとうとうだれ一人来ませんでした。
その日の午後、母さんが昨日の夜作ってくれた布のグローブを持って、いつものグラウンドに行くと、ジューカたちがペロータをしようと待ちかまえていました。
「ジューカ、今日、どうしてだれも学校に来なかったと?」
「あれっ、慎ちゃん知らんかったんか? ……おれら、あの学校へ行っとらんと」
「じゃあどこへ行っちょったん?」
「ダハボンのコレヒオだよ」
「コレヒオ?」
「そう、おれもポジートもノーマンも、みんなコレヒオに自転車で行っちょると」
(うそっ? だから、だれも来なかったんや)
ナゾはこれで解けました。
慎ちゃんにはどうしようもありませんでした。まだ、スペイン語のアルファベットさえ読めないのですから……。
父さんと母さんは、日本を出る前に横浜で何日間かスペイン語を勉強していたので、片言のスペイン語をしゃべっていました。そんな会話でも、慎ちゃんにはとても上手に話しているように聞こえました。
(とにかく、まだ見たこともないコレヒオにみんなと行けるようになるには、アーベーセーをしっかり覚えるしかない)
かたく自分にちかいました。そんなわけで、みんなと自転車に乗ってコレヒオに行ける日を夢見て、一生けん命マリア先生のスペイン語をまねて勉強し始めました。
でも、慎ちゃんが知らない間に、思いもよらないことが……。コレヒオに行く前に母さんが、別の学校を探してきてしまったのです。
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