【前回の記事を読む】「あいたっ」黒くて細い針のようなトゲがやわらかい足の裏にうまっていた。血も出て痛いけれど、野球を途中でやめるわけには…
第二章
(一)最初の友だち
右足の裏はズキンズキンと痛むのですが、野球をすれば必ずだれかがトゲをふむものなので、みんなそんなことなど気にせず、夕暮れになるまで遊んでいました。
慎ちゃんは、父さんたちがすごく忙しいことも知らずに、新しい家と、新しい友だちと野球に夢中になっていました。
(ニ)スペイン語のレッスンスタート
ラ・ビヒアに来て数週間ほどたったある日、とうとうスペイン語を勉強する日が来ました。
慎ちゃんはこの日が待ち遠しくて待ち遠しくて。ジューカやノーマン、ポジートたちみんなが上手にスペイン語をつかっていたからです。特に、慎ちゃんより一つ年下の徳二くんのスペイン語はばつぐんでした。慎ちゃんは早く徳二くんのようにしゃべられるようになりたいと思っていました。
慎ちゃんたち兄弟は、ドミニカの大統領の写真が表紙になっている青いノートと、頭に消しゴムのついた黄色いエンピツを一本を持ち、母さんは五歳のまち子ちゃんの手を引いて、みんなでいっしょに集会所へ向かいました。
いつものように真っ青な空がどこまでもどこまでも広がっている美しい日でした。
集会所は峯家の青い家より何十倍も大きく、白っぽいスレートの屋根が、太い何枚もの板とボルトで支えられていました。
右奥には一段高い舞台があり、左奥には三段に重ねられた長いすがあります。なんとその裏が「教室」でした。「教室」には黒板が一つ。その前にいすがいくつか散らばっていました。それらのいすは日本の学校で座っていたようなものとは全然ちがいました。
右側に大きなひじかけがついていて、その先っぽには大きなうちわのような板が。どうもそのうちわのような部分が机がわりのようでした。いすの下に本やノートが置ける棚(たな)がついていました。
慎ちゃんたちが行ったときはだれもいませんでしたが、しばらくすると、ぼつぼつとラ・ビヒアの日本人の子どもたちが集まって来ました。ジューカやノーマン、ポジートたちがいつ来るのかと、首を長くして待ったのですが、みんなはなかなか来ません。
「母さん、ジューカたちおそいね」
「そうやねえ、あんたの友だち、だれも来ないわねえ……。あら、いらしたわよ、あの人がきっと先生よ」
母さんが先生だといった女の人は真っ赤なハイヒールをはいていました。ちょうど母さんほどの背かっこうで、チョコレート色のはだに何か分からない明るい花がらのスカートがよく似合っていました。背筋を真っすぐのばし、歩くたびに長い黒髪が風にふかれたようにゆれました。
母さんが、その女の人に日本流のおじぎをすると、その人も軽く、でも、ぎこちなく頭を下げました。