二人の家はたまたま近くにあった。よいしょ、よいしょと言いながら、妙子は沢田の手を引いていた。

沢田は子供の頃に母親から手を引かれて、小学校に初めて通った時の様子が、記憶として浮かびあがった。思えば、あの頃は父親も優しく幸せだった。改めて沢田には妙子が母親の姿と重なって見えた。

沢田と妙子の距離は次第に近づいていき、時はそれを許してくれた。しかし近づけば近づくほど、二人きりになることを選ばなかった。けれども、それは突然形となって現れた。

学級にスタイルが良く美しく男子からも憧れの的であった豊子という、妙子の親友がいた。親友との関係は切なくガラス細工のように繊細であり、豊子は妙子が沢田に恋心を寄せて、恋仲になりつつあるのに気づいていた。

同様に豊子も沢田に想いを寄せていた。恋心としては自然なことであり、いくら豊子が沢田に気持ちを寄せようとも、彼の心には豊子の姿はなく、妙子へ向ける笑顔を豊子には見せることはなかった。それは豊子にとっては辛く歯がゆいものであった。

妙子は豊子の気持ちがわかっていたので辛かった。豊子は何とか沢田と妙子の間に入っていきたかった。いろいろと悩んだあげく、帰宅を共にしようとした。妙子はいつものように沢田を誘った。

「沢田さん、今日も一緒に帰ろう」

「そうだね」

「そういえば、社会の先生は私の方ばかり見て怖いのよ」

「そうだね。あの狼みたいな顔だったらそう思うね」

そのような何気ない会話をしているところに、豊子が恥ずかしそうな表情を浮かべて入ってきた。

「沢田さん、私も一緒に帰ってもいいでしょ? 私も同じ方向なのよ」

「駄目よ。豊子。沢田さんと一緒に帰るのは私よ」

豊子は子供が駄々を捏(こ)ねるように言った。

「どうして、妙子、そんなことを言うの? 沢田さん、三人で仲良く帰ってもいいでしょ? だって賑やかな方が楽しいから」

「そうだね、でも……」

沢田は声にならなかった。彼の優しい気持ちがそうさせたのであって、それを見かねた妙子は、即座に豊子に言い放った。女性心とは切ないもので、妙子は豊子に言い寄った。

「豊子、沢田さんが想っているのは私なの。ね、沢田さんそうでしょ?」

不安げに訴える妙子に沢田は何も言えず、妙子はとても腹立たしく思い、彼に言い放った。

「もう、沢田さんのことは嫌い」

「待って、妙子さん」

「もう知らない」

「沢田さん、妙子のことは気にしないで私と一緒に帰ろう。短気をおこしたら駄目よね」

妙子は沢田を置いて走って帰っていき、沢田は遠くなっていく彼女を追いかけようとしたが、豊子がそれを止めた。仕方なく共に帰ることとなり、帰り際に見かける風景には、全く色が感じられなかった。
 

 

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