【前回の記事を読む】「おまえら、有り金全部持って来たじゃろうの」借りていた金を全部返すとやってきた友人。麻雀が出来るやつを二人呼べと言われたが…

地球儀

1

アクシデントは一荘 (いーちゃん)目に起こった。

初心者の特性として、平和(ぴんふ)よりも対対(といとい)に走った恭平が親の二巡目。

上原から出た中(ちゅん)をポンし、十巡目辺りに葵(あお)をポンした時、三人が一斉に声をあげた。

「おい、誰や、誰が白を持っとるんや。白を鳴かせたら責任払いで」

「何や。どう言うことや……」

杉野が叫ぶ意味が、恭平には解らなかった。

「あのな、中と葵と白を全て揃えると、大三元と言う役満よ。恭平は親じゃけぇ、四万八千点入る訳よ」

説明を受けても、恭平にはよく理解できない。

その時、恭平の手には北が三枚、白が二枚、西と一筒が一枚ずつあった。

河には白が一枚、早い時期に捨ててある。牌をツモろうと恭平が手を伸ばした瞬間、下家(しもちゃ)の杉野が小さく舌打ちし、その手を撥ねた。

「何や、遅いの恭平。まだツモっとらんかったか」

卓に叩きつけるように手渡された牌は、白だった。訳が解らず驚いて、恭平は杉野を見返した。

「早うせいや、恭平」

杉野は目を逸らせ、不機嫌そうに声を荒げる。恭平は慌てて一筒を切り、河を見て、

(あっ、しまった!)と思った。

残した西は、既に二枚出ており、余すところ西は一枚しかない。

杉野が一筒を切り、上原も一筒を切る。恭平は下唇を噛んだ。山田が牌をツモり、少し間をおいて叫んだ。

「役満が怖くて麻雀ができるか! 通れば、リーチだ」

河に出た西を見て、恭平は両手を押し出すように牌を倒した。

「当たり!」

「えっ、あ~、白は暗刻(あんこー)か。くっそ、やっぱり大三元か……」次の瞬間、杉野が大声で笑い、大声で叫ぶ。

「あっはっはっはっはっ。馬鹿たれ、よう見てみい。字一色(つーいーそー)じゃ。大三元字一色(だいさんげんつーいーそー)じゃ。親のダブル役満、九万六千点じゃ」

「何や、ツーイーソーって、何や……」

首を傾げる恭平を無視して、山田が点棒箱をひっくり返して点棒を数え、その全てを恭平に突き出し、不貞腐れて言う。

「四万二千あるから、五万四千借りだ!」

この半荘もトップを走っていた山田は、一気に沈み、代わって恭平がトップで半荘を終えた。

「ほら、見てみぃ。恭平には気をつけろ言うたろうが」

杉野は、すこぶる機嫌が好い。それにしても騒々しい。誰彼ともなく、冗談とも本気ともつかずに毒づき、下手な駄洒落を飛ばしては一人で笑っている。

その間にも全身でリズムを取りながら、小川知子にタイガース、布施明にビートルズ、そして恭平の知らぬ英語の歌を口ずさむ。