【前回記事を読む】子ども、特に乳幼児は“生きていること”が仕事だが、大人はそうも行かず……
1 子どもは「生きる」プロ 〜小児科医になって子どもから学んだ生きる基本〜
問い3 素人感覚
「子どもから大人の成長過程についてお尋ねします。子どもたちは何にでも素人でいいと思うんですが、そのままではプロになれないですよね。大人はその素人感覚をいつ頃脱却したら良いのでしょうか?」
そうだね、僕は一人前の開業している小児科専門医だが、今でも素人の医者であり続けたいと思っているんだ。
子どもの頃、小学校低学年までは、成績が悪くて困ったものだった。3月25日の早生まれだしね。また家計も厳しくて幼稚園にも行けなかったから、小学校入学時は、最初何をやっているのか全然わからなかった。
5段階評価で1もたくさんあった。1年生の時に、靴の踵の部分を踏み潰して歩いていて、つまりちゃんとまだ靴を履けなかったので、全校集会の時にクラスの全児童の靴の履き方を見るために、先生に引きまわされた事がある。
4年生から札幌に転校して、そこからどうしてかわからないけど徐々に成績は上がっていった。ちなみに靴は今でも踵をよく踏み潰してしまい、上手に履けない、それで家内に怒られている、もう家内も私も諦めている。
小学校4年くらいから新聞は読めるようになったので、新聞のコラムで、「ちゃんとした人かどうかを見るためにはその人の履き物をみなさい」という事が書いてあって、「えー、僕全然上手に履けないけど」と思って子ども心にもショックだったのを思い出す。
さて、ひどい成績だった頃を振り返ってみよう。今の実感としては、子どもの頃、最初から何もできなくて本当に良かったと思う。それは周りの人が「自分より何でも知っているんだろうな、すごいなあ」という敬意につながって、それを今でも持っていられるからね。
そしてそのまま大人になると、他人や他の業界への敬意にもなるし、敬意を持つということはとても良い事なんだ。いつになっても自分も時々は謙虚でいられるから。勿論今の自分が謙虚を続けているかと思うと、疑問はあるのだけどね。
いつも人に迷惑をかけずに、素人のように、自然に自分のやりたいことを淡々と遂行することだね。
素人を続ける事がプロになる近道でもあるんだ。仕事を得て、すぐ独立できるような優秀な人はそうはいないので、生活費つまりお金を稼ぐためには、組織の中の社会人になり、その業界に入る。