今どきの建築様式ではなく、ずいぶん昔に建てられた団地のような五階建ての建物が数棟建っていて、その中のどれかだと思われた。久しぶりの坂道に足がすっかり棒になって、たまらず、木の下にあった古い木のベンチに腰を下ろした。

ここまで上ってくる間に周りを観察していたけれど、スーパーらしきものはなかったから、駅前で買い物をして買い物袋を下げてこの坂道を毎日上って来なくてはならないと思うと、ため息が出た。

今、住んでいるアパートは古いとはいえ駅から近いから、案外、古くても適正価格だったのかもしれない。

おまけ程度の小さな公園の中をつっきって通ると地面はきれいに草が抜いてあったけれど、遊具の滑り台はすっかりさびてついていて、かろうじて、もともとグリーンだったとわかるくらいに塗装がはげ落ちている。

砂場も砂を触った形跡がなくところどころ草も生えているから、子どもはあまり住んでいないのだろう。その向こう側にある駐車場の脇を、小さな手押し車を押した老女がゆっくり通り過ぎていった。

管理棟の歩幅の狭い階段を数段上ると団地の管理人室があって、透明なドアの向こうに濃い緑の事務服を着た女性が座っているのが見えた。私がドアを開けて入ると、あああなた、城野さんね、と言って立ち上がった。

「どうぞ、座ってください」

すでに用意されていたパイプいすに座ると、事務員の女性はあらかじめ用意していたと思われる分厚い茶封筒を差し出した。

次回更新は11月30日(日)、11時の予定です。

 

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