製紙工場
親戚から紹介されてパルプを作っている日本製紙山梨工場へ入社することになったのは、それからまもなくだった。
パルプとは、紙をつくる過程でその元となる繊維のことだ。私が勤めた工場では、当時山梨で多く採れた松の木から繊維を取り出す作業を行っていた。仕事は二交代制で、私はまだ十六歳だったが夜勤もあった。
松の木をすりつぶしてパルプを作るために、まず機械の中に松の木を入れて回転させながら皮をむく。松の幹には節があるが、この節はヤニを含んでいるのでパルプ製造の過程に入る前に取り除かなければならない。
その日も夜勤だった私は松の木の節取りをドリルが付いたボールバンで行っていた。暑い夏の日だった。私は滴り落ちてくる汗を首にかけた手ぬぐいで拭きながら作業を続けていた。
すると手ぬぐいの端が、ドリルの刃に巻き込まれてしまったのだ。首が絞められていく。もうだめだと思った瞬間、手ぬぐいが切れ、私は後ろに倒れ頭を強く打ちしばらく意識を失った。
もしあのままだったら、私は命を落としていたに違いない。首のまわりには手ぬぐいで強く締められた時の擦り傷ができていて血がにじんでいた。頭にはたんこぶができていた。どれだけ強い力がかかったかと思うと恐ろしくなった。ドリルは手ぬぐいを巻き付けたまま、回り続けていた。
ある時松の木の皮をむく大きな機械が突然止まってしまったこともある。機械が動かなければ、生産が遅れる。修理担当者に連絡をしたものの、修理には時間がかかると言う。
同僚も上司も、機械を取り囲んでどうしようどうしようと言っているだけで、誰も手を出そうとしない。そこでじゃあ俺が見てみますと、自ら修理を申し出た。毎日動かしている機械だし、何かできそうな気がしたのだ。
しかし私は感電してしまった。機械が止まっても電源は切っていなかったので、全身に高圧電流が流れ一時意識が遠のいた。その後全身が熱くなって震えた。しばらくして意識が戻り幸い大事には至らなかった。
この頃を思い出すと冷や汗がでるような出来事がいくつもある。それでも無我夢中で働く毎日だった。