【前回の記事を読む】猫2匹は不思議なリズムで歌う〈本当のうそとうそのような本当~。……いやあ~本当は2つかな~うそ、3つかもね~♪〉
第1話 崖の上で啼(な)く猫とゲームの始まり
翌日、淑子の家で
ある年、団圃氏の住む町のお正月の様子がテレビで放映され、死んだはずの父母が映り込んでいたのです。
「生きているわ。津波にのまれなかったのよ」
そこに嫁いで住むことができれば父と母に会えると考えました。
淑子は手文庫から手紙を出しました。
「これを見せてあげる。団圃さんの叔父さんの団是(だんこれ)さんからよ」
北城河淑子殿
里山や田畑の理(ことわり)を知り
謎森の長寿食材を見つけ
永遠の命を伝えることが
あなたの第一の目的なり
団圃団是
淑子は手紙の文字を細い指でなぞりながら話し始めました。
「団圃団吾さんは、身長165cm、体重88kg。高コレステロール、高尿酸、高血圧の三高で動脈硬化症、糖尿病、痛風もあるんだって。きっと叔父さんが心配して、健康回復を願い花嫁の私に託したんだわ」
丈太郎が腕を組んで言いました。
「食材探しで、結婚式の前に花嫁列車が迎えにくるのか。宿題だね」
「まあね~、長寿の食材ってどんなものがあるのか、楽しみだわ」
淑子が思いを巡らせていると、階段を上がってくる足音が聞こえてきました。八重子と男の話し声がします。
「玄関ホールから階段の吹き抜けや階段の手摺はこの家の見せ場の1つなんです」
「邸宅の趣きですね、手入れも行き届いています」
「2階は寝室や子供部屋3部屋とクローゼット、バルコニーです。遠くに吾妻山の種蒔きウサギが見えて、一切経山(いっさいきょうざん)の噴火口からは白い煙が立ち上るのがよく見えますよ」
「それはいいですね」
八重子が淑子と丈太郎を見つけて言いました。
「淑子、こちらの方がこの家を購入することになったんです」
振り向いた淑子は、入ってきた男を見て驚きました。
「勇(ゆう)さん」
仲介を依頼していた不動産会社専務の夕反田勇(ゆうたんだいさむ)です。専務といっても社長の息子で、淑子より2つ年上の21歳。名前はイサムですが。苗字のユウと名前の勇を掛けて勇(ゆう)と呼んでいました。1年前、淑子は勇に誘われて2度ほどお茶をしたことがありましたが、会話が続かずに次の誘いは断っていました。
その男がこの家を購入するというのです。
「淑子さん、こんにちは。この家の買主でーす。淑子さんごと買っちゃおうかなー」
「ハー」
「お嫁に行かないで、僕と結婚すれば引っ越し不要さ」
「何をバカなこと言ってるの、勇さん」
「腹の出たおじさんに飽きたら帰っておいで。家で待っているから」
「失礼ね。絶対この家には戻らないわ」
淑子の強い言葉に、夕反田勇は何も言えませんでした。
勇が帰った後、八重子に団圃家からの手紙を見せました。
食の専門家である八重子がきっぱりと言いましました。
「きっとお肉や甘いものを制限なく食べて、不健康な食生活をしているのよ。薬という文字をよく見なさい。楽という字に草冠がのっているでしょう。野菜を食べることで体が楽になるのよ。団圃さんの住む丸森の町は野菜の宝庫だからいっぱい見つかるわ」