翌日、淑子と丈太郎、そして八重子は阿武隈急行の始発駅である福島駅にいました。
小顔の淑子は金糸入り桜の総模様の振袖で、ほほやあごのラインを際立たせるように髪をアップにして、金色のかんざしを刺しています。
金地に模様が入った帯は桜花を引き立たせる配色で帯揚げは黄色みがかったベージュ、帯留めは桜模様と同じ色合いです。独身最後とばかりに一番派手な柄の振袖を選びました。くちびるには口紅の赤い色が映えて、すれ違う者が皆振り返ります。
淑子は短大の吹奏楽部でファゴットを吹いていましたが、持ち運び用の120cmの筒を背負っていました。親戚の叔父さんが特別に作ったもので、中にはファゴットが入っています。肩から掛けているので、大刀でも背負っているように見えますが、淑子は侍のような立ち姿を気に入っていました。
丸刈りが似合う丈太郎は、父の形見の大型の双眼鏡に合わせたように、半ズボンに開襟シャツの軽やかな出で立ちです。背負ったリュックサックからはねうじとねうぺが、時々顔を出していました。
「にゃー、にゃーおん」
「八重子おばばに見つかったら阿武隈川だよっ」
丈太郎は小声で言いますが気にしないで何度も顔を出すのです。
八重子は淡いベージュのふっくらとしたロングスカートに、小さな水玉模様のブラウスでした。決して小顔とはいえないおばばも、髪をアップにして小顔に見せ、洋風の髪飾りが普段とは違う雰囲気でした。
丈太郎は日頃見かけない八重子の姿にからかい半分で声をあげます。
「おばば、映画の中から出てきたか?」
「人前ではおばばなんて言うんじゃない。おこづかい減らすからね!」
「いや、わかった。でも昔の人みたい?」
「何言ってんのさ。最先端のファッションなんだよ」
丈太郎は、映画に出てくる人にそっくりだと思いました。
八重子は丈太郎を覗き込むようにして言いました。
「きれいかい? 美しいだろう」
「まあまあね。年のわりにね」
「こら、年のこと言うんじゃないよ。おこづかい減らすよ!」
「何で、ほめたのに」
女心はまだわからない丈太郎でした。
列車のホームに着いた丈太郎が声をあげました。