「母には幸せでいて欲しいから、邪魔したくないの。会うわけないわ」

「会いたい時もあるだろ?」

「プーさんがいるもの。家を出ていく時、母が縫いぐるみのクマのプーさんをくれたの。今もそれを抱いて寝てるわ」

「やっぱり、君はお嬢さんだ」と言って神矢が笑った。

「ねぇ。絵はいつできるの? いつ見せてくれるの?」

「まだまだだよ。できあがったら、君のヌードを見られなくなる」と言ってまた笑った。

「今日はもういいよ。さぁ、服を着て、こっちへおいで」と言って、神矢は画材を片づけ、ダイニングに行ってしまった。

私は服を着て、彼のあとへ行った。「お飲み」と言って、いつものコスタリカを置いてくれた。

「『ココ』へは行ってるの?」と私は聞いた。

「あぁ。君のいない時にね」

「どうして避けてるの?」

「さぁ、どうしてかな? 君はやっぱり毎日お昼に行ってるらしいね」

「マスターから聞いてるのね」

「いつも、ステンドグラスの窓の下の席に座ってる」

「そうよ。私の心の教会よ」

「何を祈ってるの?」

「ひ・み・つ!」

貴方が幸せであるように……そんな事、言えなかった。

次回更新は11月18日(火)、22時の予定です。

 

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