【前回の記事を読む】巨大釜を軽々持ち上げた怪力少女 土俵で期待されるもまさかの展開に
二
対戦相手達は、咲よりも相撲経験豊富で、身体も一回り以上は大きかったが、彼女達は向かい合った咲の小ささに、立ち会いで吹っ飛ばしてやろうという誘惑に逆らうことが出来ずに、全員が立ち会いで突っ込んでいって、土俵際で咲に持ち上げられた。結果、咲はこの大会で優勝賞金を手にしたのであった。
女相撲から撤退したはずの、桜田部屋の浴衣を着た小さな女力士が、二十歳以下の女相撲の大会で優勝したことは、女相撲関係者の注目を集めた。
雷子が桜田部屋に入門したのは、その直後であった。雷子は咲よりも五歳年上で、身体は二回り程大きかった。
初めて雷子を見た時に、道長は運命を感じた。彼女が美人だったからという訳ではなく、彼女も女力士の強者が醸し出すオーラを纏っていたからだ。
咲の稽古は、完全に行き詰まった状態だったので、この娘は、咲が女力士として活躍する為に神様(何の神様かは判らないが)が哀れな桜田部屋に寄越(よこ)してくれた、アンコ型の天使だと思った。
女将は雷子の入門を渋ったが、道長は女将を相手に驚異的な粘りの説得を続け、遂に雷子の入門を認めさせた。
道長の読み通り、雷子が稽古に加わることによって、咲の稽古に対する取組む姿勢にも変化が見られた。
年長であっても姉弟子の右近を立てて、丁寧な話し方をし、自分の技能や経験の全てを咲に伝えようとする雷子に、咲はとても懐いた。
延々と続く、取組稽古の相手も何時しか、巴達から雷子に変わっており、雷子との取組稽古は、咲の女力士としての技量を格段に上げることになった。