「神矢さんが帰って来たら、私、また一つ歳をとるわ。嫌だわ。三十になるなんて。あぁ、二十代最後の夏かぁ……」
店内はシューベルトの『セレナーデ』が、清らかに流れていた。
「えっ!? 誕生日がくるの?」
「そう」
「いつだい?」
「ドラえもんと同じ!」と言って私はクスッと笑った。
「ドラえもんの誕生日なんて、知らないよ。いつだい?」
「九月三日」
「そうかい。それじゃ、お祝いしなきゃな!」
「いらないわよ」
「だめだよ。大切な節目じゃないか。お祝いさせてくれ」
「そんな……」
「ほんとだよ。絶対お祝いするからね。約束だよ」
「はいはい。ありがとうございます。うふっ……」と、私は軽い気持ちで約束をした。それが、人生をひっくり返すような事態の幕開けになろうとは、露ほども気づかずに。
次回更新は11月3日(月)、22時の予定です。
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