【前回の記事を読む】 「死にかけの野良猫引き取るのに、金払えはないんじゃないの?」ケージを足蹴にして、男は保護団体のスタッフに噛みついた。

夭逝の願い 藤原 基子

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──あの子の形見として、受け取ってくれる?

二週間前、田澤麻衣の通夜の席で麻衣の母・瑞江は、クマのぬいぐるみを一華に差し出した。

「麻衣ね、病室でこのクマ(こ)に『イチカ』って呼びかけてたのよ。来年は一華ちゃんと一緒に中学に行くんだ、って言ってたのに……もう、麻衣は一華ちゃんに会えないけど、せめてこの子だけは、一華ちゃんのそばに……」

言葉を詰まらせながら、瑞江が一華の手を取り、ぬいぐるみを掴ませた。

一つ年下の麻衣。母親同士が昔からの親友だから、生まれた時から仲良しだった。体が弱いのは知っていたけど、まさかこんなに早くお別れになってしまうなんて。よろける瑞江の肩を、一華の母・由利香が支える。

「大切にするからね。麻衣ちゃんの分まで。一華はずっと、麻衣ちゃんと一緒だからね」

一華の代弁をするように由利香が話す。痛哭する瑞江と由利香を、まるで映画を見ているような感覚で一華は眺めていた。

クマを握ると、中の綿がクシャッと音を立てる。白い菊に埋もれた祭壇では、麻衣の遺影が生前の笑顔でこのやり取りを静かに見ていた。

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