徳三郎の江戸生活はここで始まった。到着の翌日父に連れられて上屋敷に出向き、藩主の井伊掃部頭直亮に初めてお目通りし、到着の報告をすると、その場で小姓の役を命ぜられた。

小姓の仕事は藩主の居室を中心とした中奥にあって、藩主の身辺のこまごまとした世話を行うと同時に、夜は宿直(とのい)として、殿の寝室の近くで身辺警護を行う。

したがって勤務時間は朝四つ時(十時)から翌日の朝四つ時までの二十四時間勤務で三交代制であった。

殿様といえども朝は早い。六つ時(六時)となると起床する。歯を磨き、髭をあたり、髷を結いなおす。その時の介添えは小姓の仕事である。

蒲団をたたみ掃除をし、食事の際にご飯や汁ものの盛りつけなどの食事の世話もすべて小姓の仕事である。

要するに、殿が男子禁制の「お局」でお寝(や)すみになられる時以外は、すべて男たちの手で殿のお世話をしなければならない。

この役が小姓や小納戸の仕事ということになる。殿の世話を身分の低い小者たちに任せるわけにはいかないし、殿の身辺に身元のはっきりしないものを置くわけにはいかない。

ということで殿のもっとも身近なところで警護に当たる彼らが、殿の日常生活の一部始終でお世話をすることになるのである。

 

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