【前回の記事を読む】外国人女性に突然紙を渡され、「子供の名前を考えて」…応じた結果、ある子供の戸籍上の父親になり…

二〇〇五年 孝一@領事館

「ローザに私の、本当の子どもが、もし、できていたら……」

ゲートがオープンした。乗客へのアナウンスが始まる。

「始めからいた赤ん坊は、そんな離島なら母乳しかないだろう? 授乳期は排卵が抑制されるらしい、マイワイフによると。個人差や体調差はあるだろうけどね。何も言われてないんだろ?」

「ないですけど」

エコノミークラスの狭い座席に体を押し込んだ。

「姉妹は相当、働く必要があるはずさ。出国までに書類を整えるのに、地元の業者に莫大な借金を負うらしい」

「もう、その話題は避けたいです」

せっかく足裏に感じた大地が再び抜け落ちていく。引き潮の浅瀬に立っていたとき、足裏の砂が消えていったことを思い出した。今も砂がさらわれ、体ごと落ちていく感覚に襲われた。

「最後に言わせてくれ」

所長がシートベルトを締めた。

「子どもが生まれたからといって、役所に行って届け出を出すということを知らない、あるいはできない場所にいる、という女性たちは、世界の人口、かなりじゃないの? ローザだって国の人口にはカウントされてなさそうだ。姉も母親も。君はその幼児を幽霊から人間にしたわけだ」

「恨むつもりは毛頭ないです」

感覚が鮮明に残っている。言えるわけもない。

「本当に、親切にしてくれたんです。食わせてくれました。おかげで生きてるんです」

じゃ、カルロは教育を受けるチャンスを手に入れたってことか。日本語で教えたグラフと図形は、俺が何も言わなくても家具作りに応用していた。学ぶことが楽しくてたまらない感じが新鮮だった。

離陸の圧力が心地よい。