【イブが抱(だ)いていた男の子との出会い】
「痛(いた)いよ!」
おいらは、思わず叫(さけ)んでしまった。
小さな男の子がおいらの身体(からだ)を引っ張(ぱ)っていたんだ。
その子は、
「ご、ごめんよ。君(きみ)は花なのにお話し出来るんだね。ぼく、父さんに言われて、この畑(はたけ)の雑草(ざっそう)を抜(ぬ)いていたんだよ」って、優(やさ)しく言った。
おいらは彼(かれ)にたずねた。
「ひょっとして、君(きみ)、イブの子供(こども)なの?」
彼(かれ)はうなずいてこたえた。
「そうだよ。カインっていうんだ。君(きみ)の名前は?」
「おいらはマナ。おいらは、君(きみ)のお父さんとお母さんの友だちだよ」
「そうなんだね。マナ君(くん)、父さんの友だちの君(きみ)なら父さんの気持(きも)ちも分かるよね」
「えっ、どういうことかなあ? おいらは、友だちでも、気持(きも)ちが分かるとはかぎらないと思うけどね」
「そうなんだね。でも、それでもいいから、きいてくれるかなあ。ぼくの父さんは、いつも言うんだ。『こうやってくらしていけるんだから、神(かみ)さまに感謝(かんしゃ)しなさい』って…………。
でもね、ぼくには分からないんだよ。何を感謝(かんしゃ)すればいいのかなあ? 君(きみ)には分かるかい?」
おいらは、言った。
「そうだね。これは、お父さんの気持(きも)ちではないと思うけどね。まず君(きみ)には、さっきおいらを抜(ぬ)こうとしたその手があるだろう。もし、その手が無(な)かったら、君(きみ)は、お父さんから与(あた)えられた仕事も出来ないよね」
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