【前回記事を読む】「これ、“あの実”よ。とっても美味しいから2つ取ったの」そう言ってアダムの方に走り去っていくイブ。その日以来、二人は…

【アダムとの出会い】

おいらは、なぜ、イブがあの木の実(み)を食べたのか知りたかった。そこで、イブにたずねてみた。

「ねえ、君(きみ)はあんなに怖(こわ)がっていた木の実(み)をなぜ食べたの?」

イブは、待(ま)っていたように、話し出した。

「あの木の実(み)を怖(こわ)がっている私(わたし)を、気の毒(どく)に思っていたあるみ使(つか)いさんが、『危(あぶ)ない物(もの)じゃあないよ』って教(おし)えてくれたからなの。私(わたし)、自分があの木の実(み)を見ないようにさえしていたことに気づいて、

“それなら、私(わたし)にはまだ見えていない物事(ものごと)がいっぱいあって、あの木の実(み)を食べれば、それも見えてくるのかなあ”って思ったのよね」

おいらは彼女(かのじょ)にたずねた。

「それで、何か見えてきたの?」

彼女(かのじょ)はこたえた。

「私(わたし)一人で、あの木の実(み)を食べた時は、何も変(か)わらなかったわ。でも、アダムが食べた後、逆(ぎゃく)に色々なものが見えなくなっちゃったの。アダムの気持(きも)ちも神(かみ)さまの気持(きも)ちも…………」イブは、悲(かな)しそうな顔で言った。

「私(わたし)はあの木の実(み)をアダムにあげたくて、試(ため)しに食べてみて、身体(からだ)が何ともなかったら、彼(かれ)にあげようと思ったの。だって、彼(かれ)、『食べてはいけないなんて残念(ざんねん)だなあ』って言っていたでしょ」

「エッ、死(し)んじゃうかもしれないのに?」

「それについても、み使(つか)いさんが、『死(し)ぬことはないよ』って言ったのと、あんなに面白(おもしろ)くて優(やさ)しい神(かみ)さまが、私(わたし)たちが死(し)ぬような物(もの)をつくるはずがないと思ったのもあるわ」

「つまり、君(きみ)は、アダムにあげるために、まず一人で食べて、彼(かれ)を安心させるために、彼(かれ)の前でも食べたってことだね」

「そうなの。あの木の実(み)を食べてから、確(たし)かにアダムは、変(か)わってしまったわ。なにかある度(たび)に、私(わたし)を責(せ)めるようになってしまったの。

でも、私(わたし)が悪(わる)いんだから仕方(しかた)ないわ。神(かみ)さまに叱(しか)られて、こんな所(ところ)で、大地を耕(たがや)して、食べ物(もの)を作らないといけなくなったんだもの」

おいらはハッとして、自分の足元(あしもと)を見た。そして、気がついた。そこが、畑(はたけ)の一角だということに…………

そして、おいらはまた長い眠(ねむ)りについた。

夢(ゆめ)の中で神(かみ)さまが、おいらに、なぜ、アダムとイブを園(その)から追(お)い出したのか? なぜ、あの木の実(み)をつくったのか? など、色々なことを教(おし)えてくれた。

最後(さいご)に神(かみ)さまが、おいらに言ったんだ。

「君(きみ)が目覚(めざ)めた時、私(わたし)が今話した全(すべ)てのことを君(きみ)は忘(わす)れるだろう。そして、その時々に、君(きみ)は、それを思い出すだろう。君(きみ)が私(わたし)の気持(きも)ちを気づかってくれたから、君(きみ)に話すことにしたんだ」って…………。