


私達は羊腸(ようちょう)たると言いたい細い山径を上って行く、どこかでちろちろちろちろと世離れしたコオロギがなく、幾丈か脚下の渓流がかすかな音を立てている。
ああしてひたすらな流れの末が俗な人間世界に落ちて行くのかと思うと何となく私達のここに来たことが尊く思われる。
どこもかも四顧すればすべて楓樹霜葉(ふうじゅそうよう)の錦繍(きんしゅう)ばかりである。
はらはらと頬にちりかかる紅葉の幾片! それにも無限の詩味は含まれている。とある追分道にきた。
対(むか)いの峯の頂には今将(まさ)に日が隠れんとしている、みんなが眉に掌をかざして、ここで今日の記念撮影をといい出した。
Oがすぐに肩の写真機をとり下した。
向かって右より
武 田 貞 輝 難 波 元 雄
貴島榮太郎 山 口 慶 治
大正六年十一月十一日
箕山荘主人