「いや残念だけど、そんなことはない、ホモ・サピエンスで作れる奴はそこそこいただろう。今でもたくさんゴロンゴロンと出てくるからね」

そう言ってギネスを一口含んだが、なにを思い出したか、自分で吹き出し「ソーリー」と謝り、またハハハハと笑った。

「現代人でも器用なやつは……。パリの大聖堂を作った石工はどうだ」

「これはね、どう研鑽しても彼らのレベルには達しないんだ」といやに自信たっぷりだ。

「どうしてだ?」

「それはね……ホモ・サピエンスには“意識”がなかったんだ」

「え、意識がない!」

「そう、“われわれのような意識”がね」

これは! 突然のなんとも破天荒で未知の海原に誘惑するような話だ。ビールを重ね良い気持ちの脳みそに衝撃がはしった。――なんと意識のない人間か、いったいどんな生き物か。これは深そうで、はまりそうだ――窓の外に目をやると、ほぼ赤道上の陽はまだ高い。集合時間まで格好の時間つぶしになるだろう。JJはさらに続ける。

「よけいな意識がないから、技を得るまで何万回でも繰り返せるし、作るときも無心の境地ね」

 

👉『アキレウスの迷宮』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「大声を張り上げたって誰も来ない」両手を捕まれ、無理やり触らせられ…。ことが終わると、涙を流しながら夢中で手を洗い続けた

【注目記事】火だるまになった先生は僕の名前を叫んでいた――まさか僕の母親が自殺したことと今回の事件、何か繋がりが…?