【前回の記事を読む】成人式など必要ない。あんな親たちを満足させるためのショーなどやめればいい

第一章

少し前屈みになりながら、今日子はひたすら前に向かって歩いていた。あまり長いあいだ歩き続けると、足を引きずるように歩き、場所を選ばず立ち止まる。それから、また歩き出す。先ほどと同じぎこちなさで。

最近になって、今日子は急激に痩せた。食欲がなく、食べるものも流動食のようなものばかり。腹部の膨張感のためよく眠れないことも多い。

朝目覚めると、しばらくぼぉーっとして、病人のように体を動かし、涙を拭った。心のなかに重く冷たい石があるようだった。何かが起こっているのはわかっていたが、それが何なのかはわからなかった。

昼過ぎだというのに電車内は混んでいた。たまたま空いた座席に今日子は腰掛けた。そして物思いに耽った。一種の放心状態。一つの言葉に、脳が引っかかり、重力にひっぱられるように、体も心も暗い穴に落ちていく。

今朝、バイト先の寿司屋に、「体調がすぐれない」と伝え、病院に行った。妊娠ではなかった。医者からは、「痛みの原因がわからないので、再度、精密検査をしましょう」と言われた。

少しほっとはしたが、なんだか残念なような気もした。もし妊娠していたら、河合はどう言うだろう。聞いてみたかった。答えは決まっているけれども、それでも聞いてみたかった。

妻子がいることは最初からわかっていた。いままでは気にもならなかった。たまたま好きになった男が結婚していただけだと思っていた。