このジューカのほかに、佐竹くん。ニックネームはノーマン。機びんで、野球が上手でよくショートを守っていました。前歯のない口をあけて、へらへら笑っていて、つかみどころのない男の子。何をさせてもうまいのだけど、話すのはどうも苦手だったようです。

つぎに中原くん。スペイン語で「ひよこ」という意味の「ポジート」と言うニックネームがもうついていました。慎ちゃんよりも一つ年上なのに、まるで二つも三つも年下のようなかわいらしい顔をしていたので、このニックネームがついたらしいのです。

最後に、「チャコ」の犬山くん。日本にいるときからチャコと家で呼ばれていたそうです。譲二ちゃんと同じ年で、すごく無口。でも、とても同じ年とは思えないほどしっかりした感じの子です。鼻が悪いのか、いつもハーハーと口で息をしていました。

ほかに、チャコのお兄さんの、のりおさんと実くん、さいとう実くんと弟の徳二くん、種子島から来ていたハンサムな亀田くん、それに頭がみんなより少し大きく見えたので「カベソン」(スペイン語で頭でっかち)というニックネームのついた山中の新ちゃん、坂本くん兄弟たちみんなが友だちになりました。

慎ちゃんはジューカたちからさそわれて初めて野球をしました。野球で知っているのは、そのころはやっていた「おう、かねだ、ひろおか」(王、金田、広岡)というダジャレくらいで、いきなりこう球で野球です。何をどうしたらいいのかさっぱり分かりません。

遊び場所は、コロニアのまん中辺りにあるボデーガの横の原っぱ。そこに厚紙で作った小さなベースをおきます。慎ちゃんは、ピッチャーをしているポジートの後ろのほうで、何も持たずに、外野手です。

みんなはテント布でできたグローブを持って来ていました。カニのはさみのように二またに分かれていて、中には綿がぎっしりつまっていました。

ポジートがボールをホワンと優しく投げると、ジューカが信じられないような勢いで打ちました。ボールはあっという間に慎ちゃんの頭をこえて、後ろの草原にころがって行きます。慎ちゃんは急いでボールをとりに草むらに入ったとたん、ズックをつらぬいた何かが、右足の土ふまずにささりました。

「あいたっ」

慎ちゃんはしゃがみこみました。

「どうしたの」

「足に何かがささっちょるみたい」

急いでズックをぬぐと、痛いところに何か黒くて細い針のようなものがささっています。

「ああ、トゲだわ」

だれかがすぐに教えてくれました。

ドミニカの野生の多くの木にはトゲがあり、そのグラウンドは森のトゲの木を全部たおして作ったので、そのトゲがいたるところに残っていたのです。トゲの先っぽは固くて黒く、それが折れて、慎ちゃんのやわらかい足の裏にうまっていました。

「おれが取ってやる」

ジューカが器用に指で取ってくれました。少し血が出て、痛いことは痛いのですが、野球を途中でやめるわけにはいきません。慎ちゃんはすぐにズックをはき直して、「オーケー」とみんなに合図しました。

 

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